京学園都市(みやこがくえんとし)
数万ヘクタールに及ぶこの一帯には、徳川財団の財力と英知を結集した文字通りの学園群と日本最先端の研究機関が集っている。
徳川財団当主の従兄弟筋に当たる、松平 容保(まつだいらかたもり)様のお預かりとして、学園都市の中枢、薄桜学園と周辺の治安維持を受け持っている組織、
そう、それが、私がお世話になっている薄桜学園歴代最強と呼ばれる『新選組』だ。
「おやおや、お早いご帰還ですね」
「ただいま戻りました、山南(さんなん)さん」
私がそう応えると、彼はいつも通りの柔和な笑顔を浮かべ。
「しかし、山崎君から大体の話は聞きましたよ。災難でしたね、雪村君」
「あ、あはは…」
これまたいつも通りのこと。彼にこれを言われるのももう何回目か。
乾いた笑いを浮かべていると。
「でも千鶴ちゃんもまんざらじゃなかったみたいだしね。あのまま置いてきたほうが良かったかな?」
「滅多な事を言うな総司。また『副長』の雷が落ちるぞ」
後ろから、捕縛した不良たちを送り届けてきた沖田さんと斎藤さんが声をかける。
「まぁまぁ。その辺で良しとしましょう。今お茶を用意しましたので、まずは一服」
さっきからこの場を取り仕切っているメガネの男性は、生徒会(新選組)で書記(立場としては総長と言う肩書きらしいのだが)をしている、3年生の山南 敬助(さんなんけいすけ)さんだ。
入学以来の秀才で、常に学年トップを取り続けているだけあり、言葉の一つ一つがとても知的。それでもそれを鼻にかけないところに皆が惚れているのが一目瞭然。
特に沖田さんは以前から彼に懐いているフシがあり、今だって。
「で、お茶菓子は山南さんが選んでくれてるんですよね?」
「えぇ。今日はみたらし団子の気分だったのでご用意していますよ。沖田君の大好きな例の店からね」
「さすが山南さん、話が早いや」
さっきまでの殺気が嘘のような、子供のような笑顔。まるで本当の兄妹のようだ。
それにしても、今日は彼の姿が見えない。
キョロキョロと生徒会室(屯所と言わないと、その『彼』に怒られてしまうのだが)を見渡していると。
「あぁ、『土方(ひじかた)』君ですか?今日は多忙で今席を外していますよ」
山南さんがすかさずフォローしてくれる。
「そう、ですか」
「あれ?千鶴ちゃん寂しいの?」
「ちっ、違います!茶化さないで下さいっ!」
これもまた、『彼』がいないときのいつもの光景だったり。

 土方 歳三(ひじかたとしぞう)
この学園最強の組織を総べる、副長(生徒会副会長)だ。
剣道部の主将を務める傍らで生徒会の職務も完璧にこなし、退館時刻はいつも午後9時前。
そんな生活をしているせいだろうか、いつもどこかカリカリしている感じがあって、つい放っておけない気持ちになる、そんな人だ。
「まぁ、土方君がいないのは半ばいつものことですからね。実は急なのですが明日他校の生徒が視察に訪れるとの事なんですよ」
「へぇ」
ちょうどお湯が沸いたのか、お茶を淹れている山南さんが待ちきれず、お団子を頬張る沖田さんが興味なさげに返答する。
「行儀が悪いぞ総司。それで、山南総長、他校とは?」
斎藤さんは斎藤さんで至って冷静で、沖田さんへのツッコミも忘れず質問も忘れない。
山南さんは頷き、話し始める。
「あぁ、うちと同じ全寮制の学校ですよ。生徒会長が急病のため、風紀委員長とその護衛役がご一緒だとか」
「護衛ねぇ…山南さん、その護衛役、場合によっては斬ってもいいんですよね?」
山南さんが苦笑いした瞬間。
「いいわけねぇだろうが!」
「ッ!」
あー、ビックリした。
振り返った後ろには。
「総司、テメェは絶対屯所から出るんじゃねぇ!先方さんに怪我でもさせてみろ!戦になるぞ!」
「やだなぁ、土方さん。怪我じゃなくて殺すんですよ」
「…総司、道場掃除と撤回、好きは方を選ばせてやる。まぁ、テメェなら十中八九道場掃除だろうがな」
「冗談ですってば」
ひっくり返すの早い!
彼は彼で、眉間に皺を寄せたまま、首を力なく横に振った。
この長身痩躯の男が、その問題の副長、土方さんだ。
土方さんは乱暴に扉を閉めると、定位置に座り。
「護衛役を寄越すってことは、俺たち新選組もそこそこの戦力だと見られているってことだ。いらん刺激をすれば近藤さんが痛い目に遭う」
近藤さんとは、新選組の局長(生徒会顧問)で教頭先生の近藤 勇(こんどういさみ)先生のことだ。多忙に次ぐ多忙で最近屯所では見ていないけど。
そして出されたお茶を一口啜るとまた立ち上がる。
「次は何ですか?」
「総合格闘技同好会と折衝があってな。そいつらと激論を交わしてくる。斎藤、護衛に付き合え」
「御意」
「お忙しいことで」
山南さんもその相変わらずさにもう笑うしか出来ないみたい。
それを気にもせず、かといって無視するわけでもなく、おう、と一言だけ返事すると、土方さんは斎藤さんを伴い屯所を出て行った。
「ホント、ちょっとは休めばいいのに」
「そうもいきませんよ。彼にとって仕事がないこと以上の苦痛はないんでしょうし」
土方さんも山南さん同様、文武両道。学年5位以内に入り、それでいて仕事も部活も完璧。
そんな完璧超人だからこそ、多少の問題も綺麗に整理しないと気が済まないのだろう。
「それに、斉藤君を連れて行ったのは間違った選択ではなかったようですよ。沖田君なら彼らを片っ端から斬ってしまうところでしたし」
「そうなんですか?」
山南さんのメガネが、キラッと光り。
「教頭…もとい、局長に直談判に行ったらしいんですよ、彼ら。同好会を部に昇格の上予算を割いて部費と部活棟利用を認可するようにと」
なんでも話によると、総合格闘技同好会とは名ばかりで、体育館の片隅で談笑して、同じところで練習をしているバレー部やバスケットボール部を邪魔し、
場合によっては突然練習に乱入してボールを相手にぶつける、ネットをずり下げる、とにかく素行がひどいらしいのだ。
校外でも半ばチンピラ同然の喧嘩騒ぎを起こし、2名退学、1名停学中。そのさなかの請願だったという。
「近藤さんがにべもなく断ると教頭室のトロフィーを叩き割り、賞状類を地面に叩き付けると、驚く彼に罵声を浴びせ出て行ったそうで」
「…ねぇ山南さん、その子たち殺しちゃっても、別段問題はないよね?」
私は、内心ゾッとした。
沖田さんの発言が、ではない。これはいつもの事だから。
沖田さんがそんな風に反応すると知っていながら、そういう情報を出した、山南さんにだ。
山南さんはいつでもポーカーフェイスだ。感情を必要以上に表に出すことはない。
だけど、彼も彼で願っているんだろう。素行不良の同好会を、沖田さんが粛清することを。
「止めはしませんよ。土方君のことです。斉藤君には不用意に刀を抜くな、と指示しているでしょう。そして斉藤君も土方君に命の危機が迫らない限り」
やすやすと、刀を抜くことが出来ない状況にあるはず。
それを言い終わる前に沖田さんもまた、屯所を飛び出していった。
「山南さん」
言おうとする私に、彼は。
「これでいいのです。ただでさえ他校の生徒が来るときに、内輪のゴタゴタが目に付くのはあまりよくない」
それだけ言って、お茶にしましょうと提案する彼の笑顔に、私は恐怖と戦慄を禁じえなかった。


 同時刻。
案の定、あの土方さんと斎藤さんが、壁際に追いやられていた。
「どうよ、これだけの頭数に2人で勝てるかァ?副会長さんよォ!」
同好会は、他校のチンピラ数十名を校内に無断で入れた上、3人の女子バレー部員を拉致し、強姦している最中だったらしい。
問題なのは、その弱りきった少女たちを盾にしたまま、彼らに詰め寄ったこと。
斎藤さんも案の定、抜くに抜けない。
「斎藤、切り抜ける策を考える。だから刀は抜くな」
「しかし」
「副長命令だ…悪ぃがあの女共も纏めて斬っちまえば、それこそ近藤さんの立場がない」
「…御意」
構えはするが、斬りかかって来ない。
いつもの斎藤さんを知っている不良たちだ。挑発する。
「どうしたァ?女子供が怖くてよく自分たちはサムライだなんて言えるなァ、斎藤!」
「そーだそーだ!お前殺し屋だろ?生徒会なんて見限って俺らの仲間になれって!そうだ、イマココで土方を斬れよ!そうすりゃ仲間にしてやるよ!」
その言葉に斎藤さんは。
「下衆の仲間に自分からなる馬鹿はおらん。少なくともこの新選組にはな」
「新選組だってよ!ダセェんだよ!このクソガキがぁ!」
そう言って一人が、女の子を盾にしたままチェーンを振り回して斉藤さんたちに襲い掛かったときだった。
「ぐはぁッ!」
「んごォッ!」
一番後ろにいた二人が息絶える、断末魔の声を聞き振り返る不良グループ一同。
「やれやれ。キミ達チンピラは分かりやすくていいよ。リーダーはいつも後ろ。部下と弱いものが前方。だから斬りやすくて助かっちゃうなぁ」
そこには、返り血を浴びたまま笑顔で微笑む沖田さんと、斬られて絶命した同好会長と他校チンピラグループのリーダー。
「会長!」
「アニキィ!」
狼狽。女の子の一人を盾に沖田さんに突っ込む不良一名。
しかし、その隙を衝いて今度は斎藤さんが抜刀し、不良を突き崩す。
「…あんたらと一緒にいると、俺にも馬鹿が伝染る。さっさと始末して屯所に戻る。副長、許可を」
横目で許可を求める斎藤さんに、土方さんは。
「…こうなったテメェらを止める方法なんざハナからねぇだろ。やっちまえ。弱者を犯し、その上でニタニタ笑ってるコイツらを片っ端から閻魔様のところに送ってやれ!」
猛者の剣と無敵の剣。新選組の双璧を成すこの2人が抜刀した瞬間、彼らの命運は尽きたのだろう。
気が付けば体育館の片隅は、血と肉片と、そして運よく生き延び、重傷のまま捕縛された者たちの挽歌が木霊していた。


 「やれやれ、派手にやってくれるものです。少しは始末する側の苦労も考えて欲しいものです」
相変わらず苦笑いの山南さんの耳元で、低い声で唸る土方さん。
「…総司を嗾けたのはアンタだろ…次やったら承知しねぇぞ」
「…何の事やら。それに、仮にそうだとして、そうでもしないと貴方は死んでいたかもしれません。学園都市、ことこの薄桜学園では弱肉強食が掟なのですから」
運ばれていく死体。体育館周りを固める、ダンダラの腕章をつけた生徒会役員達。
この薄桜学園において、正当な理由での殺人は罪には問われない。
生徒会役員は帯刀を許可されており、無用の不逞を働く者たちを殺すことも任務になる。
後は殺害した人数を正確に報告さえすれば、すべて学園都市上層部内部で処理され、外部に漏れることはない。
そうして殺害された者たちの遺体は学園都市内の研究機関で解剖であったり、検死の練習に持ち込まれ、事実は闇に葬り去られる。
これが、学園都市の掟であり、その結果『弱肉強食』が絶対の真理になっているのだ。
…初めて出会ったとき、私もまた、今保護されて泣きながら抱き締めあっている子たちのように、不良たちにレイプされる寸前だったのだ。
あの時斎藤さんと沖田さんが現れて、彼らを斬り殺していなかったなら、今頃私は…。
だから、だろうか。
感覚が麻痺していて、人が斬られて殺されていても、最近何も感じなくなってきている。
そんな私の肩に、ぽんっ、と置かれる手。
「千鶴。お前らしくねぇぞ。そんな顔はよ」
「原田さん…」
いつの間にか体育館内に入ってきた原田さんが、微笑む。そして。
「土方さん、とりあえず人払いと逃げたヤツの捕縛は終わった。島田たちが今からキツイ尋問を行うってさ」
「そうか。ご苦労だ。よし、引き上げるぞ。今日の活動はこれまで。全員、屯所に戻るぞ」
その言葉を聴いて、私たちは体育館を後にした。血を必死で拭う、監察の隊士さんたちに会釈しながら。


 新選組の屯所とは、生徒会室とさっき言ってしまったけど、実は生徒会室だけではない。
学校の少し外れ、昔農業実習に使われていた一帯に建っている、一見すると大名でも住んでいるんじゃないかと思うような大きなお屋敷。
ここが、正式な屯所。その中に生徒会室が含まれているに過ぎない。
なんでもバックについているとても大きなパトロンが、ここを作ってくれたそうな。
私たちはここで寮生活をしている。勿論私の部屋だけはちゃんと鍵が五重に掛かるようになっているので安心だけど。
「副長!おかえりなさい!」
「おう」
頭を下げる見張りの隊士さんに手で答え門をくぐると、土方さんは。
「少し部屋で仕事する。千鶴、源さんに飯は後で部屋に頼むと伝えてあるからいらん気は回すなよ?」
「はい」
この間お仕事中の彼に食事を運んで、躓いてお味噌汁を書類の上にこぼしたことをまだ根に持っているみたい…とほほ。
それにしても、明日この学校に視察に来る人たちは。
「こんな血腥い光景、見せられないなぁ」
そうだ。明日こそ血を流す人がいない一日にすればいい。
自室に戻った私は、そんな事を考えながら、堅苦しい制服を脱ぐのだった。


あとがき

新選組を出した以上殺害とか抹殺とか粛清は常日頃、なんていう某科学の電磁砲みたいなセカイとはまた別の世界を作ってみました。
ちょっと支離滅裂だからまた書き直すかもね。
次回はリトバスからゲストです。誰が護衛役で来るのかな。

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