斥候チームは予定通り日付変更と同時にキャンプを出て行き、そして0640時ごろ『フォート・バスターズ』に帰ってきた。
恭介たちが司令部テントの造営を完了すると、恭介、僕、来ヶ谷さん、謙吾がテントに入り、作戦会議を始める。
「今日未明から今朝まで実施した斥候だが、山道を上手い具合に突破できたのはいいが、問題は川だな」
「ほう?」
謙吾が通ったルートを照らし合わせ、司令部の机の上にある地図に×を書き込んでいく。
「比較的広い山道を選んで移動したが、特に道をさえぎるものはなし。ただ川は俺が泳いでみたがかなりの深さがある。流れもそこそこあって、徒歩では渡河不能だ」
謙吾はある程度のスポーツに精通していて、もちろん泳ぎも得意分野だ。しかしその謙吾が流れがそこそこっていうことは。
「迂闊に突破するのは危険か。無論もし川向こうに敵がいるとして、こちらに攻め入ってくることは出来ないというワケか」
恭介の指摘。賛同する来ヶ谷さん。
「その通りだ。だが油断は出来まい。極力早い段階で前哨拠点を作り、敵の動きに素早く反応できる体制を整えねば」
「賛成だ」
かくして、丘の上に前哨拠点を作ることが決定し、謙吾と真人、西園さんを先遣隊として現場に派遣することになった。
前哨拠点の構造としては、簡単な土嚢を積み上げると同時に、そこに軽機関銃を1挺配置。また、そこで一番大きな木の上に即席ではあるけど監視用の足場を作り、
ある程度の範囲をカバーできるようにすることが決められ、こういった工作が得意な謙吾と、建材輸送の真人、通信手の西園さんが選出されたってわけだ。
「じゃ謙吾、真人、西園さん、くれぐれもムリはしないでね」
「おうよ」
「あぁ、行ってくる」
「…骨は拾ってください」
不吉なことをさらりと言う西園さんをスルーして、とりあえず出動させた。スルーもツッコミ。
 ではここでそれぞれの動きを見てみよう。
まず葉留佳さんと二木さん。帰還直後テントに戻って二人とも爆睡中。二木さんの胸に葉留佳さんがダイビングして二木さんうなされ葉留佳さん夢心地。うーん、じゅるり。
起こしちゃまずいとテントから離れ、あーちゃん先輩のテントへ。とりあえず医薬品の点検をしながら眠ってしまったみたいだ。何もすることがなくて退屈だと思うけど頑張って。
毛布を掛けてあげてテントを後にする。小毬さんとクドも疲れておやすみ中。そういえばクド、ヴェルカとストレルカをつれて来れなくて残念がってたなぁ。次やるときは何とか方法を
考えてあげよう。僕にできることはきっとそれくらいだから。
そして自分のテントに戻ると。
「!?」
「…ほう」
フィールドジャケットを脱ぎ、ブラを外した来ヶ谷さんが、濡れタオルでカラダを拭いておられました。
「ご、ごめん、直ぐに出るからっ!」
狭いテント。足を伸ばして地面に座り、その姿勢で体を拭いていたんだから、当然その先は分かるよね。
長い脚で僕の足は簡単に捕まり、そのまま転倒すると同時に声を上げる間もなくテントに引きずり込まれる。
「離してよっむぐぅっ」
そして大声を出す暇も与えず、万力のような力で僕の頭は彼女の胸に吸い込まれる。
「むぐっ」
「そうか。理樹君は可愛いなぁ。乳離れが出来ずついつい私の胸を拝みに来るとは」
いえいえそんな気はないんですけどね。速く解放してください。ホントに溺れて死にますから。
悔し紛れに空いている手を使って、彼女の桃色の少し大きな乳首を摘む。刹那、電撃が走ったかのように彼女の体がビクンと跳ね上がり、そして。
「ぐぼぉ」
僕の体も跳ね飛ばされてテントから飛び出した。うん、コレ確実に蹴り飛ばされたね。
「貴様はしばらく出入り禁止だ。私にオイタをしなければ最後までさせてやったものを」
パップテントの出入り口が紐でしっかり締められ、僕は完全に閉め出されモード。ため息一つ。
「…ガムでも噛もう」
フィールドジャケットの胸ポケットから、レーションの残りのガムを取り出すと、口に放り込む。
1943年ごろの復刻版だから、どうも味は最近のガムと比べて甘さより刺激が強い気がする。煙草はさすがに同封されていなかったけど、当時は両切りの煙草、
特にラッキーストライクが多く入っていたらしい。その煙草が部隊では通貨として利用されていたとか。例えば。
「バカ兄貴、小腹が空いたぞ」
「ほう。二等兵。まずは言い方をしっかり考えろ。そして員数外のレーションをくれてやる代わりに、分かるな?」
「全然わからん。さっさとよこせバカ軍曹」
全然敬われてないね恭介。
「いいか、食料が余分に欲しければ払うものを払うんだ。もちろん上官への敬意も払えよ」
上手いこと言ったつもりだと思うけど全然面白くないからね恭介。
鈴は首をかしげ、恭介の要求を想像し。
「この変態め、死んでしまえ」
さらりと凶悪なことを言い放った。
「ちょっと待て。何故俺が変態になっている。いくらなんでも兄ちゃん胸が痛いぞ」
軍曹じゃなくて兄って認めちゃってるしね。
「食料が欲しいならカラダを提供しろということか。何かのマンガで読んだぞ」
それ完全にポルノ雑誌だね。禁制品だから僕がもらうよ。
恭介もため息混じりに。
「いいか鈴。俺はさすがに妹に手を出すほど飢えてはいない。軍では基本物々交換なんだ。言いたいことは分かるな?」
「さっぱりわからん」
「…」
恭介が可哀想なので、鈴に歩み寄り。
「僕のチョコバーでよかったらあげるよ」
胸ポケットに入っていたDレーション(緊急用レーション。味の薄いカロリーメイトチョコレート味を想像してください)を差し出す。
「うみゅ、恩に着るぞ理樹」
そしてそれを掻っ攫うと、猫のような速度でどこかへ走り去る。背中を見送り。
「理樹。緊急用レーションがなくて必要なときに腹は満たせると思うか?」
恭介から案の定、お叱りをいただく。
「それは分かってるけど、やっぱり可哀想だよ」
「そうか。まぁ俺としては煙草を貰えたら余っているレーションくらいくれてやったんだが」
「煙草が欲しいの?」
「あぁ」
確かに顔には出さないけど、学校を卒業して、恭介は煙草をやるようになった。ニコチン切れの恐怖も良く知っているに違いない。
なぜか僕のバックパックに入っていたラッキーストライクを思い出し、テントに戻ろうとするが。
そう言えば来ヶ谷さんから締め出しを食らっていた。
「ねぇ恭介。後で必ず持ってくるから、今はこらえられる?」
僕の問いに彼は。
「大丈夫だ。まだ何とかなる。無くなった訳じゃないしな。あと4本残っている」
それも陽が中天に至る頃にはなくなるだろう。仕方ない。来ヶ谷さんの怒りが収まったら取りに行こう。
それだけ伝えると、僕はマ・デュースを配置している土嚢に向かった。


【視点変更:西園美魚】

 ジジッ、ジジッ。前線より報告します。
…ノリです。気にしないでください。雰囲気を出すためですから。
0830時より資材一式を準備した私たち前哨陣地設営隊は、約一時間掛けて目標の高い木に到達。
まずはそのすぐ側、川を見下ろせるポジションに宮沢さんが準備した土嚢を手際よく積んでいきます。台座になる土嚢を楕円状に積み、その間間に大き目の石など
固定できるものや泥を更に挟んでズレを起こしにくくして、更に土嚢を積む。アリの巣を掘るような作業です。同時進行で私は無線機とヘルメットを木に立てかけると、
土嚢から30cmほど離した位置、土嚢用の土を掻き出した穴を少し拡張してピット(個人壕)を掘ります。宮沢さん曰く、敵の銃火器の攻撃や迫撃砲の着弾の破片から
カラダを守るためのものらしいですが、そんなことがありえるのでしょうか。この日本で。
しかし彼がノリノリなので水を差すのもアレです。黙って掘ることにします。手が痛い。そしてすぐ息が上がる。こんなことならもっと鍛えておくべきでした。
それにしてもこの木、見上げれば見上げるほど、学校の中庭のあの木に似ている。上に井ノ原さんが載っても折れる気配のない強靭な枝たち。
簡素な足場をロープで固定しているみたいです。腹ばいになって狙撃が出来るくらいの場所でしょうか。後はそこに上り下りするためのロープをつけて準備完了。
同時刻、こちらも個人壕の準備と機関銃の設置が完了。後はフォート・バスターズに余っていた天幕の布を片方は地面にペグで固定し、もう片方をロープで木に縛り付けます。
日差しも防げるし、隠蔽も出来る機関銃座が完成しました。
「やったな」
「やりましたね」
「あぁ、やっちまったぜ」
達成感溢れる3人。ここに飲み物でもあれば乾杯をするところですが、何分前線なので水しかありません。そして何よりこの人たちの水筒から水を飲むのは正直…美しくないです。
私だけ自分の水筒で乾杯。しかし前方への警戒は怠りません。どうせ出るとしても熊程度でしょうけど。
しかし直後、それが熊ならばどれだけ救われたか、という事態が発生するなんて、私たちは知る由もなかったのです。


 来ヶ谷さんから何とか許しを貰ってバックパックから煙草を出し、M1ヘルメットの中に入れて恭介のジープに向かう。恭介はジープの天幕と高い木の間にテントを張り、
その下でゆっくりしている。何でも車両所有者の特権だ、とかなんとかで。案の定恭介はそのテントの影で、木にボールをぶつけながら、それをグラブでキャッチしていた。
「恭介」
「あぁ。理樹か」
差し出す煙草。恭しく受け取る恭介。
「助かったぜ」
「いえいえ」
恭介がボールを投げてきたので、僕も彼に習いボールを木にぶつける。跳ね返ったボールは恭介のほうに跳び、それをグラブでキャッチ。そしてまた僕に投げる。
そんなアソビを続けているときだった。
ザー、ザザザッ。
無線機が音を出す。すぐにジープに駆け寄り手に取る。
最初それは西園さんから『陣地が完成した』というだけの報告だと思ったのに。
「こちらフォート・バスターズ、どうした?」
「……こちらリトル・ストラクチャーズ。現在敵と思われる少数部隊と交戦中。弾薬欠乏寸前。援軍を要請します」
「なんだと!?」
恭介の顔が一気に真っ青になる。
あくまで軍気分のキャンプであり、敵となる勢力はいるはずがない。最初はジョークか、せいぜい小動物を的にしてそんな風に言っているだけと思ったのに。
確かに無線からは銃声(電動ガンの連射音)が聞こえてくる。ただ事ではない。
「西園!現在弾薬はどれくらいだ!」
「……後250発弱だそうです。宮沢伍長が負傷。形勢は不利。最悪の場合は退却します」
「了解した。無理はするな。敵勢力が何人か、地平線上のシルエットを確認しながら捕捉せよ。以上通信終わり!」
一方的に通信を切ったかに思えたが直後には。
「理樹!弾薬庫からありったけの武器弾薬を集めろ!キャンプは女子寮長とソフト部に任せる。俺、理樹、来ヶ谷、二木で前線に急行するぞ!」
「了解!来ヶ谷さんと二木さんを呼んで来る!」
ヘルメットを被ると、僕は急いで、来た道を引き返した。恭介からは『武器弾薬以外持つ必要なし。背嚢やバッグに弾薬が入っている場合は許可する』という指示があったので、
それをすぐに来ヶ谷さんと二木さんに伝える。二木さんはさっき起きたばかりでまだ不機嫌そうな顔だったけど、謙吾が負傷したことを伝えると、嫌々ながらも出番が来たと思ったのか、
衛生兵用のバッグを引っつかみ、赤十字のマーク鮮やかなM1ヘルメットを被ると、ジープに向かって一目散。
準備の所要時間は僅か4分。僕と二木さんが後部座席。僕はM1919A6(車載型M1919軽機関銃)射手。来ヶ谷さんが双眼鏡を持って助手席に。天幕を固定していた紐を引っ張ると、
後は恭介がエンジンを掛けて出動だ。
「理樹!振り落とされるなよ!」
1時間はかかる行程だけど、それは資材や武器弾薬を持った状態での話。ジープと言う馬鹿でかい鉄の心臓を持った乗り物ならばせいぜい10分程度で到着できるだろう。
あーちゃん先輩がとりあえず残る兵士をまとめて指示をしている。小毬さんと鈴がマ・デュースの射手。山側の防備は残りのメンバーで行うようだ。
安心して無線を取り出す。そしてそれを二木さんに渡す。
「何よ」
「機関銃構えながらじゃ交信は出来ないからお願いしていい?」
「…了解。負傷者の状況も知りたいしね」
その割にノリノリな二木さん。すぐ交信を開始する。
「バスターズ・リーダーよりリトル・ストラクチャーズ、応答しなさい」
『…こちらリトル・ストラクチャーズ、どうぞ』
西園さんは一呼吸置いて通信に出た。まだ戦闘が続いているのか銃声が聞こえるが、さっきに比べ散発的だ。
『……敵は小手調べのようです。退却を開始しました。オーバー』
運転中の恭介がハンドシグナルを片手で行う。ある程度意味が分かったのか、頷くと二木さんは。
「深追いの必要なし。これから10分以内で援護に向かうわ。交替しましょう」
『了解。指示を待ちます。オーバー』
「了解、通信終わり」
無線通信が終了すると、再びそこはエンジンの音だけが支配する、沈黙の世界へ逆戻り。
「来ヶ谷。せっかく狙撃銃を持ってきてもらって悪いが、車載用のM1897トレンチガンを後部席の下に載せてるんだ。使わないか」
「バカをいうな恭介氏。ショットガンの射程が短いことくらい、知らないのはアホの真人少年くらいだぞ」
真人がこの場にいたらキレそうな発言だ!
「そういうな。機関銃手に理樹がいるし、双眼鏡も俺が使う。お前はこちらの陣地深くに敵が攻め込んでいないか、攻め込んでいた場合の対処を頼みたい」
「…そういうことなら受けよう。理樹君」
「うん」
後部席のスカバード(鞘)からショットガンを引き抜くと、それを来ヶ谷さんに渡す。
「…銃剣も欲しい。あるか?」
「あぁ、あるぜ。理樹、同じところにあるだろ」
「うん」
こちらは鞘ごと紐で縛って固定してあったので、それを解いて渡す。来ヶ谷さんは受け取った銃剣をM1936ピストルベルトに固定。白兵戦になった場合、手遊びも力加減もなく、
容赦なく刺し殺すつもりだろう。いや、僕の知っている来ヶ谷さんならそれをするに違いないから。
ジープはそうこうしているうちに、前哨陣地に到着した。
「みんなっ!謙吾っ!大丈夫!?」
ジープから飛び降りようとする僕を手で制止する恭介。
「なんでさ!」
「落ち着け理樹。敵がまだどこかにいるかも知れん」
「…」
そうだ、ここは前線だった。一呼吸置いて合言葉を叫ぶ。
「フラッシュ!」
「サンダー!こっちです!」
西園さんの声に安心し、ジープから降りると、すぐに近くの茂みに飛び込む。そして遮蔽物から遮蔽物への移動を交互に行う。僕と衛生兵の二木さんが真っ先に前哨に合流した。
「おまたせっ!謙吾は!?」
「軽傷です。足を捻っただけです」
「だけと言うな。容赦のない奴らだ。理樹!」
「うんっ!」
手に持っていたアーモボックス型マガジンを手早くM1919A4の空になったマガジンと付け替える。そして敵が逃げ込んだと思われる方角に向けて連射する。
しかし、弾は川の少し手前に着弾し、川を越えることはない。それはそうだ、所詮はBB弾を撃ち出すだけの電動ガンなんだから。
「…しかし、敵は何故この位置を?」
その問いは極めて簡単な答えから成り立っていた。
「…昨日は暗かったので分からなかったのですが、あそこを見てください」
「…」
恭介が姿勢を低くして双眼鏡を覗き込む。すると。
「飛び石か」
「……はい。敷設開始前に発見しました。本当ならばこの後宮沢さんが報告をした後、他に飛び石がないか斥候に出るはずだったんですが」
「なるほどな。よし、そっちは俺達でやろう。西園、謙吾、いったんお前達は前線から引き抜く。謙吾は寮長に足を見てもらえ」
「大丈夫だ、なんとかなる」
「命令だ」
「ぐっ」
命令ならば已む無し。渋る彼を半ば引っ張るカタチでジープに乗せると、恭介はいったん西園さんも同伴してキャンプに戻るようだ。
「理樹。指揮は任せた。状況が変わり次第すぐに報告をくれ」
「了解」
来ヶ谷さんは木に登り、双眼鏡と狙撃スコープを両方使って周辺の監視を行う。
「恐らくあの距離だ。上に向かって射撃をしても届かなかったが、かなり近くまで接近してきたのは間違いないだろう」
「…で、近くに他の飛び石は?」
問題はそこだ。
パトロンから貸し与えられたこの山はある程度フェンスで囲まれ、シーズン時はキャンプ場や総合レクリエーションの会場として使われて『いた』らしく、第3セクターの倒産でそこを
放棄した知り合いから権利を格安で得たということだから、何箇所か橋や飛び石があってもなんら不自然ではない。
「だが敵は反対側の丘に逃げていったんだろう?真人少年?」
「あぁ。クソッ、最悪の気分だぜ」
イライラして水筒の水をがぶ飲みしている真人を見る限り、真人や謙吾ですら敵の接近に気づいていなかったようだ。
「ねぇ真人、相手はどんな感じの人だった?」
「…無我夢中で撃ってたから顔までは覚えてねぇけどよ、こう、金髪をツインテにした女とすんげーひ弱そうな女の二人組だったぜ」
…。
……。
………。
…………あ。

朱鷺戸さん、誘うの忘れてた。


 「朱鷺戸さん、もう帰りましょうよー」
「イヤよ!絶対に理樹くんとその他モロモロに分からせてやるんだから!あたしたちを誘わなかった報いをね!」
朱鷺戸さんと、巻き込まれた可哀想な3人…杉並さんと高宮さん、勝沢さん。そして。
「…宮沢さん…誘っていただけないなんて……屈辱の極みです」
古式さんまで来ていたことは、まだその時、僕らは知らなかったんだ。


あとがき

第2話でようやく搭乗の沙耶ちゃん(あやちゃん)。
そう言えば理姫ちゃんは出てくるんだろうか…。

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