1350時。
敵の迫撃砲攻撃が止み、再び前線に膠着のときが訪れる。
来ヶ谷は先ほどの怪我をしっかり検査するため、先ほど相坂がジープでフォート・バスターズに運んでいった。
敵は昼前に2回目の空中投下で補給を受けており、恐らく今頃久々のメシにでもありついているのだろう。
こちらの状況はと言うと。
『さっきから言っている通りだ。敵の物資補給が出来る地点を完全に制圧しろ』
「無理を言うな!」
司令部の恭介と押し問答の真っ最中だ。
理樹もおらず、また来ヶ谷も後送されている状態で、恭介は対岸の丘の中腹、多目的広場を制圧しろと言うのだ。
多目的広場はここがまだ第3セクターのキャンプ場だった頃、一般的にキャンプファイアなどに使用されていた場所だ。
先ほど赤い煙が上がって、空中投下が行われたのもそこ。こちらは広場といえばフォート・バスターズのみ。
弾薬運搬はジープ頼みという状況に、兵力の差はあれど向こうのほうが理にかなっていると、漏れるのはため息ばかり。
『敵は現状杉並を抜いて4名。お前達で十分叩けるはずだぞ!』
「馬鹿を言え!敵には古式がいる!優秀な狙撃兵だ、来ヶ谷の状態を見れば分かるだろう!」
脂汗を出して大丈夫大丈夫と呟いていた来ヶ谷だが、次第に呼吸が荒くなり、後送される始末。
まさか破傷風がこんなに早く発生するとは思えないが、少なくともいい状況でないのは確かなこと。それなのに。
『これは命令だ。本日2200時までに目標地点を確保せよ。以上通信終わり!』
「っ!」
一方的に通信を途絶させられる始末。恭介は2200時までに制圧を完遂するようにと吐き捨てるだけ。作戦などなし。
スイの105mm砲は山の中腹、ちょうど広場周辺を攻撃できる射程があるが、敵がそこに常に駐留しているわけではない以上、
無駄に攻撃目標や位置を露呈する事は憚られる。そして何より弾薬が次第に欠乏し始めているようなのだ。
「所詮は急ごしらえか」
ため息は、もう何回目だろうか。
「らしくないわね。ほら弾薬」
「相坂か」
聞き慣れたエンジン音がしたと思うや否や、ジープが近くに止まり、そこから相坂が出てきた。そして横に弾薬の入った袋を置く。
「2200時までに中腹の広場を制圧ですって?恭介くんも人使いが荒いんだから」
「まったくだ」
双眼鏡で飛び石周辺を確認するも、動きは。
いや、あった。
「高宮だ」
「みたいね」
飛び石前、白い旗を持った高宮がいた。
学園の制服から恐らくドイツ軍のつもりだろう、イタリア仕立てのような少し青みがかったウールの野戦服に身を固めた高宮が接近してくる。
「動くな!そこで止まれ!」
飛び石を越えて来て渡りきったところで、俺は停止指示を出す。
彼女は指示に従い停止した。
「降伏でもしにきたのかしら」
「違うな、所謂軍使というヤツだろう」
案の定、彼女が口を開いた先。

 『つまり杉並を返せば5時間の停戦時間となるわけか』
「その通りだ。恭介、どうする」
高宮が内容を伝え、その気があるなら杉並を同伴の上1500時までに返答されたし、と残して去って行った後。
恭介の判断を仰ぐために無線を飛ばした結果、かえって来た言葉は。
『了解した。釈放してやろう』
「・・・敵戦力を回復させるとでも言うのか?それとも、彼女が嬲り殺しされるのを見て楽しめと言うのか!?」
怒りで声が震えるのも無理はないだろう、しかし。
『ちょうど終わったからな』
「何」
無線機からノイズが入ったと思えば。
『ひゃぁっ・・・りきくん、りきくんっ!』
『うぅっ・・・』
聞き慣れた声。それは。
『理樹による種付けが終わったところだ。当初は面白半分だったんだが、捕虜虐待どころか喜びやがったんでそのまま続けさせていた』
「貴様っ!」
『この人事不省状態の杉並を向こうに突き帰してやれば敵は怒りのあまり我を失うか、捕虜になればこうなるんだと恐れ戦き退却するかもしれん』
「この外道め!貴様は人間ではない!」
理樹を利用した、汚らわしい拷問。怒りが収まらない。
すると、恭介はニヒルにこう言い放つ。
『むしろ褒め言葉だな。相坂、聞いているとおりだ。ジープを寄越してくれ。この哀れな雌豚を連中に突き帰す』
「了解。理由は締まりが悪くなったから、でOK?」
『あぁ。それで構わんさ。以上通信終わり』
相坂もニヤニヤしながら乗り気。なんだ、この気持ちの悪い奴らは。
人の皮を被ったバケモノなのだろうか。怒りが、腹の中で煮えくり返る。
人も殺せる出力の武器が手元にあるんだ。誤射とでも言ってこいつらを始末してしまおうか。
BARを手に取ろうとした瞬間、それを察した相坂は。
「まぁ、早い話が停戦している5時間の間にこちらにも増援部隊が来る予定なのよ。それに向こうだって防御陣地を構築しないと現状のままでは勝てないと分かってる」
「・・・増援だと?」
「えぇ。あたしたちよりもっと凄腕の増援が合流する予定」
「・・・だがそれが捕虜虐待にどう関係する!」
怒りをぶつけると、彼女は。
「恭介くんのことだから、向こうが捕虜返還を求めてくる間考え付くだけの時間稼ぎをしただけでしょうよ。そんなもん、あのスカした男のケツにでも聞いて頂戴」
ジープはまた、爆音を立てて坂道を少し登り、すぐ下っていく。
「・・・」
「謙吾くん、コーヒーですヨ」
「・・・あぁ」
影で状況を聞いていて、出るチャンスをすっかり逸していた三枝が、コーヒーの入ったキャンティーンカップを差し出してくる。
一口啜れば、それは、あまりに苦く、そして、怒りを静める材料には到底なりえなかった。


 人事不省状態の杉並睦美が、M43ジャケットだけ羽織らされ、鈴と一緒に飛び石を通過する。
そこで高宮に杉並が渡され、鈴は元来た道を戻る。
「停戦は5時間!その際に一方的に攻撃でもしようものなら許さねーかんな!」
高宮が吐き捨てる言葉にバカっぽさを感じつつも、こちらも停戦の間の再編準備を始めるのだった。

 「まず弾薬欠乏の近いヘッジホッグスの105mm榴弾砲は一時後退だ。もし敵がこちら側に渡河して来た場合、残っている弾薬は脅威にもなりうる」
「がってんしょーちのすけっ」
ちっとも残念そうじゃないスイは、ジープに危険物の弾薬を載せると、砲門に栓をして、それを相坂に委ねた。
「んじゃこまりん、あたしたちも白兵戦に移行しよーか」
「うんー」
こうしてヘッジホッグスは一時解散となり、部隊は高狙撃戦向けの新しい部隊として再編された。
「レイダースは現状維持。停戦中は架橋などの準戦闘行動も許可されない。とりあえずベイリー橋の資材運搬だけ頼む」
「了解した。後1往復で完了予定だったからな」
ナハトもそれに賛同すると、ハーフトラックを早速ながら動かし、フォート・バスターズへ戻り始める。
「俺たちは現状維持。敵が一方的に停戦を破棄した場合に備え、防備を怠るな」
「了解」
「了解ですヨ」
「うみゅ」
最後に現状残っているアヴェンジャー隊員に現状維持を下命すると、俺は再び、土嚢の内側から双眼鏡を覗く作業に戻るのだった。
「敵も停戦中は空中補給など依頼できないはず。即ち本日の補給はないということだ」
「だけどセスナは夜間も飛べるわ」
二木のもっともな話に、俺は答える。
「ほぼ寸分狂わぬ投下をするために、低空飛行をする必要がある。だがここにはそれを照らすウェイポイントなど一切ない」
「・・・アマチュアならまずやらないパス(飛行行程)ってわけね」
「その通りだ。恐らく動くなら明日明け方から昼前まで。その間に投下地点を奪えば」
勝機は見える。そう、敵がこれ以上増えなければの話だが。
しかし。状況は一気に悪くなっていることに、俺たちは気付かなかったのだ。

 「笹瀬川の取り巻き3人が敵に寝返っただと…!」
「あぁ、こちらの武器を一部奪った上でな」
戦線に復帰した来ヶ谷と相坂が漏らす。
「こちらが杉並さんにしたことを察して、このままではと逃げたみたい。もう、向こうの仲間、あたしたちの敵ってことよ」
「・・・笹瀬川は知っているのか?」
「勿論。貴方に合わせる顔がないって自殺しようとしてたから止めたわ。感謝なさい」
「・・・くっ」
決していい空気になりえないその脱走話。
どうやら昼間の戦闘の混乱の間に離反を決めたということだろう。
これで敵の兵力は先ほど返した杉並を含めて8人。こちらは現状相坂たちを含めて18人。まだ兵力に差はあるものの。
「殺傷力の高い武器を持って離反している辺り、最早問答は終いと言うことだろう」
傷口が疼くのだろう。手で押さえ、苦虫を潰す顔になりながら、来ヶ谷は呟く。
「増援は本日1930時までにこちらに到着するってことだったわ。もうただじゃ済まさないみたい。あたしたちも休暇明け会社に行けないかもね」
「・・・」
冗談に聞こえない相坂のセリフ。ただ、心はすでに決まっている。
「・・・来ヶ谷、相坂、みんな。奴らを殺すぞ。もうこれ以上舐められた真似をされて、引き下がれるか」
「同感だ」
「えぇ」
みな頷く。そうだ、ここは私有地だ。誰も介入して来れない。殺して埋めるのも自由だろう。
「イカれたゴミ野郎をぶちのめす。準備をしよう」
「了解」
この坂道の下、飛び石の中腹が我が軍と敵部隊との前線。ここを突っ切れば、俺たちは。
イライラは募るが、止むを得まい。今は停戦中だ。可能な限りの準備をしておこう。
セスナ機が上空を何回か確認しながら飛び、そして去っていく。物資投下は恐らく敵指揮官から拒否されたのだろう。
忌々しく上空を見つめながら、俺たちは塹壕と個人壕の補強を始めるのだった。


 私たちは、杉並さんをあんなふうに扱う彼らを恐れ、確かに離反しました。
それは、佐々美様に忠誠を誓ったことに反するかもしれません。それでも、彼らの中にいる佐々美様を救助するためには、コレしか方法がなかったのです。
しかし、目の前の状況は、とても凄惨でした。
「おいムツ!てめぇ良くもあれこれと情報流してくれたな!」
「ぐっ!ふぐぅっ…」
杉並さんを太い木に縛りつけ、先ほどから勝沢さんが散々に、それも執拗に顔とお腹を殴打しています。
彼女の顔は既に膨らみ、もともとの顔がどんな感じであったかを思い出せないレベルまでなっています。
「あァッ!?なんとか言えよコラァ!」
痺れを切らした勝沢さんが、太い木の棒で彼女のお腹にフルスイング。
直後、杉並さんは白目を剥き、意識が飛びました。
「っち、死んだかな」
「ちょっとバ勝沢やりすぎだってばw」
高宮さんがニヤリと笑い、そして、水を掛けます。
冷たさに目を覚ますと、また顔を殴打。
「あたしらの本営とか全部バラしたんでしょ?テメェバラして埋めんぞ!」
そんな凄惨な拷問を、朱鷺戸さんも、古式さんも止めようとしません。
これなら、よっぽど直枝先輩に種付けされている杉並さんのほうがまだ幸せそうでした。
なんてことでしょうか。帰ってきた瞬間友軍兵士に裏切られるなんて。
「おいクソ豚3匹!」
「!」
あからさまな侮蔑。川越さんが睨みつけますが、たちまち殴打され地面にくず折れます。
「んだぁその目は!逃亡兵を匿ってやってんだ!ヘタしたらこいつとおんなじ目に遭わせるから覚えとけよ!」
「…はい」
力なく答える私たち。満足したのか、鬼は、もう一発余分に杉並さんのお腹にパンチを叩き込むと、縄を解き。
「朱鷺戸さん、コイツ埋める?」
人事不省からほぼ瀕死状態の杉並さんの処遇について朱鷺戸さんに尋ねる勝沢さん。
仲間なんだから。きっと助けるに違いない。そう思ったのが誤りでした。
「そうねー。戦えそうにないし、あたしたちを不利にしようとしたんだから。生き埋めにしましょ」
「!」
「そうこなくっちゃ。ムツ、あんたとは短い付き合いだったけど、もうそのクソみたいな顔見なくて済むわ。たはは」
高宮さんが笑いながら言い、そして。
「おいクソ豚ども!こいつ穴掘って埋めな!」
それだけ言うと、私たちにスコップを差し出してきました。受け取らずにいると、まず渡辺さんがスコップでお腹を殴られます。
「ぐふぅっ!」
「やれっつってんだよ!逆らったらてめぇらも殺して埋めんぞ!」
さらに勝沢さんが渡辺さんの頭を靴で踏みつけ蹂躙します。
「なんなら向こうの男どもに引き渡してレイプさせてもいいんだぞ?ア?」
もう、容赦はないようです。ちらっと目配せすると、朱鷺戸さんは。
『やれ』
と口パクで伝えてきます。
「どこ見てんだコラァ!」
そして勝沢さんの平手が私の顔を捉え、地面に叩き付けました。
「さっさと対処しな!こいつは裏切り者なんだ!しなかったらてめぇらも一緒に殺す!」
「…はい」
そうして私たちはまだ息のある彼女を、深い穴を掘って埋めました。
後ろ手に手錠、足錠、そして猿轡。でももともと既に内臓破裂で死亡寸前だったのです。土を分けて、出てこれるはずもないのに。
こうして、私たちは、一つの罪を共有することになりました。
生き埋めという、絶対に拭い去れない罪を。
朱鷺戸さんのお父さんはどう思うでしょうか。自分の娘が、荷物を落としてやった空の下でこんな残虐行為を働いているなんて。
でも、手を下した私たちにも責任はあるのです。賎しくも生き残ろうとした、自分勝手のために。

                                                           -----中村某の携帯に残されていた文章より抜粋。


 2000時、天候は再び雨。前線の意地を続ける俺たちにも流石に疲労の色が見え始める。
しかし、最大の問題は。
「援軍は来ない…?」
『あぁ、予定されていた援軍は何者かの妨害に遭い目下合流不可。ただし、こちらもパトロンのバックアップで物資の空中投下が行われることになった』
つまり要約すれば、今の戦力で何とかするしかない。ただし、武器弾薬などは空中投下を行うのでそれを使用するといい。
「なぁ恭介。そのパトロンとやらは何を企んでいるんだ?」
その質問には。
『さぁな。自分で考えろ、謙吾』
この体たらくだ。
ただ少なくともマトモなことを考え付く人間でないことは確かだ。ましてや。
「一介の高校生に殺し合いをさせる時点でまともではないだろう!」
『だから自分で考えろと言ったんだ。お前も、もうガキじゃないだろ?』
「…」
『連絡事項は以上だ。各員前線に警戒し恙無く保持せよ。以上通信終わり』
『了解ですwお風呂入りたいですw』
『りょーかーい!あたしもお風呂入りたいー』
mとスイが方や冗談めかして、方や本気で不満をぶちまけ通信が終わる。
この雨がシャワー代わりとは実に不快極まりない。これではマトモな士気すら維持できるか…。
「みんな、通信の通りだ。補給が投下で行われるらしい」
それで活気付くわけもなく。
「ふぅん。簡易シャワーとか運んできてくれるの?」
「まさか」
「なら失格ね。ただせめてヘリでも飛ばしてくれればゆいちゃんを病院に搬送できるのに」
「気遣い無用だ。幸いかすり傷だったからな」
連中がどんな武器を使っているか分からないが、少なくとも古式は急所は掠めてくれたらしい。
来ヶ谷もすっかり冷静を取り戻している。これなら。
「援軍は来ないが、なんとか持ちこたえよう。とりあえず、向こうも雨で動けはしない。こちらも今のうちに戦線を整理するぞ」
早速ながら、俺たちは敵の夜襲に警戒しつつ、個人壕を強化することから始めるのだった。


あとがき

 これで、朱鷺戸さんご一行を謙吾くんたちがホントにぶっ☆ころプレイしてしまっても何の怒りも湧かない、
むしろヤられて当然じゃないか、と思わせるほうに誘導できれば幸いです。いあ、別にあやちゃんが嫌いではないんだけどね。

勝沢と高宮は文字通りの悪者っぷり。もう睦美ちゃんをトモダチと思っていないようです。
だから背景色を黒くさせていただきます。これから、どんな風に捻じ曲げていこうか。


【質疑応答】
さっそく拍手に質問が来ていたのでお答えします。

>理樹はでてくるんですか

出てきます。予定では。ただし、予想以上に人間性が捻じ曲がっている可能性もあるかもしれません。


>ツイッターでバトルロワイヤル的な発言とリトルバスターズ側から戦死者が出ることを示唆していましたが本気ですか?本気ならやめてください

本気です。誰かしらが犠牲になります。前半のほのぼのムードから一転、後半は戦争映画の悲劇を地で行くストーリーです。


>私有地であっても殺人や殺人教唆は罪ですよ?

フィクションです
フィクションです。大事なことだから2回言いました。そしてパトロンこと秋子さんが絶対何かやらかすはずです。

※流石に某凶悪2人組出すのはあれこれ厄介なのでご退場いただき改変しました。02.05

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