0115時。
鈴と三枝が前線に合流し、相変わらず膠着状態の敵との境界線を、双眼鏡で見つめ続ける。
「ガム、あるか?」
「ありますヨ」
差し出されるガムを口に放り込み、妙な動きがないかを確認し続けるが、もはや前線に突出し続けるほどの必要性がないくらい、
前線は、完全に静まり返っている。ヘッジホッグスからの砲撃はない。今度こそ寝てしまったのだろうか。
レイダースも同様。対岸後方のマ・デュースが火を噴けば、それはそれはおっかないことになるのは間違いないのに。
「こちらリトル・アヴェンジャーズ。前線膠着。オーバー」
通信を送ってみるが、戻ってくるのは。
『了解。継続して前線を見張れ。通信終わり』
恭介の味気もぬくもりも感じない無線だけ。ただし、通信機の後ろからだろうか、響いてくる悲鳴は。
「杉並め。せいぜい死なないようにすることだな」
忌々しいインディアンの声を聞きながら、迫撃砲の仰角を少し水平気味にする。
砲弾は、先ほど勝沢を黙らせたハバネロ弾。死ぬ目に合わせてやる。俺たちの休暇を、こんな雨と泥まみれにしやがって。
吐き捨てたガムは、雨粒がカタチを変えてしまう。前進の指示もなし。さっさと狩りをさせてくれ。戦士の血が叫ぶのをこらえながら、
俺は、相変わらずの前線にため息を吐き出した。


 斥候の指示が出たのは、それから20分程度後のことだった。
「杉並が吐いたのか?」
「あぁ。最後は大小便垂れ流しで泣きながら真実を語ってくれたよ。M1ガーランドの銃剣が何度か膣内に潜りかかったしな」
「どんな拷問だ・・・」
頭が痛い。先ほど戻ってきた相坂と来ヶ谷から、大体の状況を聞く。
まず補給の件だが、当初杉並と古式が気を利かせて持ってきた保存食は、後先を考えないバカ3人のためにほぼ無くなっているとのこと。
それに輪をかけて、先ほど昼間に発生した小競り合いの際、勝沢がボロボロにされたのを、誘った杉並のせいにされ、暴行されたらしい。
髪を引っ張られ、地面に転がされ、勝沢の代わりに高宮が主にカラダを中心に殴る蹴る。その挙句何か食べ物を持って来いよ!と喚き立てる
勝沢の機嫌を直すため、食料探しに壕を出たところを、俺たちアヴェンジャースカウトに捕捉され、撃破された挙句捕虜になったという。
「酷い青あざが何箇所かあったからな。クソ虫どもめ。少女をいたぶる事は私が許さん」
「お前も大概だ。しかし」
その結果、前線の状況は大まか判明した。
まずこの川の対岸から坂道を登り、およそ20分程度のハイキングを楽しんだ先に、かつてこの地域に住んでいた隠れキリシタンたちが
信仰を守り抜いたという隠れキリシタン洞穴に突き当たる。そこに彼女らはいるという。傷病兵を抱え、打って出るにも出られない状況。
「ガス弾でも撃ち込んで殲滅するか」
「いや、その途中までにトラップが何箇所かあるに違いない。敵の指揮官は自称スパイのおバカだと聞くからな」
「なんと・・・」
自称スパイとはなんだ。自称でも格好悪いぞ。
「しかし、敵もまともな火器は持っていないのか」
「あぁ。指揮官・・・朱鷺戸とか言うらしいが、そいつが8mmを使うボルトアクションガスガンを持っている程度だそうだ。ただ改造してあるようだな」
「俺の横にあった木に大きな痕をつけた銃だな」
「うむ」
人体にはあまりいい影響がなさそうだ、まともに食らえば。
「ともあれ、現在レイダースが後方に撹乱目的の工作員がいないか確認をしているところだ。後方の安全が確保され次第、我々は打って出る」
「了解した」
銃剣の付けられる武器を持ったメンバーすべてに着剣を指示する。容赦はしない。もう殺す。
来ヶ谷も言ったが、俺たちのテリトリーに勝手に入ってきて、こんな風にしてくれたのは奴らだ。刺し殺して埋めたところでなんてことはない。
何かが起こるとも思えん。不思議と、そんな気持ちになる。
夜間斥候は結局夜を徹して続けられ、0630時に後方および前方斜面の安全が確保された。回廊はクリア。戦闘行動を開始する。


 Cレーションのクソ不味い朝食を交替で行い、0815時、パトロンからの連絡が入る。
『不法侵入なので対処は任せます。資材置き場に緊急時用の組み立て式鉄橋があるのでご利用ください』
『あと、怪我のないようにしてください。聞くところによると皆さんのお知り合いという方がそちらに向かわれていますのでよろしく』
以上。
「ただし組み立て式鉄橋・・・所謂ベイリー橋みたいなものだろうが、組み立てればジープはおろか戦車やハーフトラックも渡河可能になるな」
「そうすれば連中に与えるプレッシャーも大きなものになる。そういうことだろう?」
「うむ」
来ヶ谷がさっそくナハトに依頼をかける。
「こちらアヴェンジャースカウト。ナハト氏、ハーフトラックでフォート・バスターズ横の資材置き場から組み立て式鉄橋を牽引されたし、オーバー」
『了解した。どの程度ある?』
「パトロンからの情報によればハーフトラックなら3往復程度で確保できる資材とのこと。オーバー」
『任務了解。1130時までに対処する。オーバー』
「遅いな」
『全員のメシがまだ廻っていないんだ。何かあれば連絡する。以上通信終わり。オーバー』
「ライトオーバー。通信終わり」
来ヶ谷が目の前の獲物をまだ狩らせてもらえないことに苛立ちを隠そうとせず、悪態を吐く。
「仕事の出来ん輸送部隊に何の価値があるか」
「落ち着け」
「落ち着けるか謙吾少年。このままでは連中に反撃のための時間稼ぎをさせてしまう」
もっともだ。
ただ、現状として敵の兵力は分かっていても、回廊のほんの入り口しか安全は確保されておらず、戦闘車両の援護ナシに突破は不可能というところだ。
「せめてジープが対岸に渡れればこちらのものだ。防御拠点は現状維持。ヘッジホッグスも砲撃程度ならしてくれるだろう」
「しかし・・・」
「今焦っても大局を見失うだけだぞ」
「・・・」
そう言えば来ヶ谷は結局昨夜一睡もしていない。だからだろうか。彼女にしては珍しく冷静な判断を欠いているきらいがある。
「来ヶ谷」
「なんだ」
「少し休んでいろ。警戒は俺たちで何とかする」
「・・・」
それは用済みと言う意味か?あからさまに嫌な顔をする彼女を促し、とりあえず土嚢の内側で休憩させる。
理樹も帰ってこない状況で、これ以上人員を失うのは何かと厄介と言うものだろう。
来ヶ谷も渋ってはいたものの結果としてその指示を受け入れ、15分程度の仮眠を摂るのだった。

 状況が動いたのは0920時のことだった。
「謙吾少年。上空に見慣れないセスナ機だ」
「何」
この近辺はもともと旅客機の飛行ルートには入っておらず、極稀に民間機の練習飛行が行われる程度。セスナもそれと思った。
しかし。あまりに高度が低い。そればかりか何度も同じ飛行経路を、まるで機銃掃射でもしたがるかのように飛び、そして。
目の前の山の中腹あたりから、赤い煙が上がる。あれは。
「・・・のろしか?」
「・・・いかん謙吾少年!今すぐセスナに銃撃をするんだ!」
「馬鹿を言え!相手は民間の飛行機だぞ!」
「いいから早く!」
「っ!」
来ヶ谷め、ついに気でも狂ったか。
所詮は出力を法律ギリギリ程度に設定している電動ガンだ。飛行機の速度に追いつけるわけがない。
しかし、来ヶ谷の判断が正しいということに気付くのに、そう時間は掛からなかった。
セスナから、パラシュートが3個ほど落ちてきた。
それは、先ほどの赤い煙幕の地点にほぼ正確に着地し、セスナはそれ以降、飛んでくることはなかった。
つまりアレは。
「・・・補給物資の空中投下だと・・・?」
「・・・そう言えば」
来ヶ谷が、何かを思い出したように呟く。
「確か敵の指揮官、朱鷺戸あやの父親は、民間機の操縦資格とセスナ機を所有していたはずだ」
「・・・」
まんまとしてやられた。俺たちは地上からの補給に頼るしかない。だが敵はどうだろうか。
「空中輸送までされたら、こっちは・・・」
幸いなことに人間は降下させていないようだから後ろを取られる心配はない。
だが、それすらも可能性の一つとして挙げられる状況になったことは、我々を更に混乱せしめた。
「・・・ベイリー橋の架橋を停止しよう」
「何を」
俺が提案できること。それは。
「敵がいつ、パラシュートを使って人間を降下させるか分からない。このままでは後方が取られるぞ」
「その時は恭介氏に玉砕してもらおう。我々は進軍を急ぐべきだ」
「来ヶ谷!」
掴みかかる。
「俺が一人やられる分には構わん!だが仲間を否定するのだけは許すことが出来ない!」
「敵は少数だ。今なら蹴散らせる!」
「敵にどんな補給物資が渡ったか分からん状況だ!改造8mmが何挺も補給されていれば、次こそ死人を覚悟するハメになるぞ!」
そこへ、恭介からの通信が入る。
「恭介!退却を」
『退却の話をしているようだが、それは認可できない。ベイリー橋を架ける。現状を維持せよ』
「恭介貴様ァ!」
無線機に怒鳴るが、返事はない。
来ヶ谷、してやったりという顔で一言。
「決まりだな。虐殺の始まりだ」
時をほぼ同じくして、後方からの補給が到着する。ナハトがベイリー橋の資材と一緒に、新しい武器弾薬と装備を後方から輸送してきたようだ。
「パトロンから新しい資材が届いた。こちらも、反抗を開始するぞ」
それは、禍々しい血の祭典の始まりを予感させた。


 1015時。前線に新しく届いた武器。それは。
「・・・人を殺せるレベルの出力だと!」
俺は、怒りと諦めと、そしてあまりの馬鹿さ加減に中空を仰いだ。
「そうだ。いよいよ敵も本気のようだからな。こちらも武器を換装する。すでに後方の連中は武器を交換済みだ」
来ヶ谷が新たに届いたM1ガーランドを手に取る。それは、外観はさっきまでのガスガンと同じ。だが。
火薬を思わせるような強烈なリコイルアクションと共に、目の前にあったりんごが、2/3吹き飛ぶ。
「運がよければ一生消えないアザと、金属コーティングされた弾が骨にめり込む激痛を味わうだけで済む。最悪の場合は」
りんごと同じ運命になる。笑いながら呟く来ヶ谷。ダメだ、もう何もかもが壊れ始めている。
「キミとて、先ほどすべての兵士に銃剣を着けろ、と命令していたではないか。殺す気マンマンなんだろう?」
「・・・」
「敵対する勢力を徹底的に痛めつけ、逆らう力を殺ぐ。そうして勝手に撤退してくれれば御の字じゃないか」
「・・・」
一理あって、そうでない。
嫌な板ばさみだ。俺は結局最後の最後で、武士道と言う、カタにハメられ、越えられないのだ。
殺戮本能が、純粋さと強烈さに欠けてしまう、今の状況。
「敵は恐らく杉並女史を奪還するか殺害するために再び出現するだろう。ここで撃たなければ、私たちや、仲間が死ぬぞ」
「・・・」
向こうも、我々に大怪我を負わせられるレベルの武器を持っている。そうだ。
「因果応報というヤツか」
「その通りだ。報いを受けさせようではないか」
「・・・」
願わくば、当たらないように撃とう。奴らを、追い返す程度の射撃で何とかしよう。
奴らはゲリラ戦を主軸においてくる。こちらに突っ込んできても小競り合い程度なのは目に見えている。それなら。

 その判断が、甘かったらしい。
刹那、隣にいた来ヶ谷が地面に崩れ落ちる。
腹からの出血。それは。
嫌なものが脳裏をよぎる。つまり。
「狙撃兵だ!」
来ヶ谷を土嚢の後ろまで引っ張り、横たえる。待機していた二木がすぐさま彼女のジャケットを破り、傷口を確認する。
「大丈夫、弾はどこかで落ちてるみたい。皮膚表層を傷つけてるだけだから傷は深くないわ」
それでも、ジャケットに滲むくらいの血を出した辺り、危険には変わりない。すぐさま止血を試みる。
「恭介!狙撃兵だ!来ヶ谷が被弾!」
『・・・何だって』
流石の恭介も、声色が変わる。
回避判断の完璧な来ヶ谷が狙撃される。そして、そんなことが可能なヤツがいるとするならば、それは。
「古式、古式ィッ!」
その名を叫ぶと同時に、土嚢にプスッと突き刺さる感覚を感じ、俺たちは完全に狙われていることを悟らせた。
スイに依頼をかけ、砲撃をさせる。可能な範囲をハバネロ弾で掃討し、その間に止血の終わった来ヶ谷を庇いながら、俺たちは対岸に退却した。
その際、迫撃砲と一部の弾薬(もっとも、ハバネロ弾やストレミング弾はなく、青汁満載の青汁弾と照明弾程度)を対岸に置いてきたのが、後々敵に
いいように弄ばれる理由になるとは、その時思わなかった。

 『来ヶ谷の状態はどうだ?』
「あぁ、落ち着いている。本人は不覚だとしか言わないが」
恭介からの無線に力なく答える俺。あの時、もっと休ませてやれば。なおかつ、もっと狙撃されないように安全な場所で話していれば。
『すべて後悔してもどうしようもないことだ。現状維持せよ』
「・・・」
『聞こえたか、宮沢伍長』
「・・・了解。通信終わり」
対岸からは、嫌がらせのように、青汁弾が飛んでくる。照準を次第に合わせてくる始末で、マトモに川に近づけない。
幸いなことに敵がまだ渡河してこないだけ、マシだと思うが、それでも。
「俺は何のために、ここにいるんだろうな」
さっきまで勝てる、楽勝だ。そう思っていた自分が情けない。その弱さが、強がりが、結果として来ヶ谷にこんな怪我を負わせてしまった。
「・・・・・・新たな援軍を要請しよう」
「謙吾少年・・・」
仰ぎ見る空を、さっきのセスナが通過する。再び上がる煙幕。本日2度目の空中投下は成功し、連中は新しい補給物資を手に入れたようだ。
「このままじゃ、俺たちはいいようにやられてしまう。もう、箍は外れたよ」
俺は、奴らを殺す。夏休みが終わったあと、留置場暮らしでも構うものか。
怒れる拳は、そのまま恭介への無線に変わるのだった。


あとがき

 さーて、次は誰を援軍で送り込んでやろうか。そして敵にもそろそろ援軍を送りたいところ。
でもチートクラスの狙撃能力を有する古式さんがいるだけでリトルバスターズを圧倒できそうなところ・・・。

あ、今更ながら去年の8月くらいにいただいていた芽生えドライヴ関連の拍手をご紹介。

>芽生えドライブでの「プライベートライアン」ネタは反則です。まさかのライベンがでてくるとは。たしかにライベンは印象的でした。小説版は見れなかったのですが。映画はみれました。
>ノルマンディ上陸から最後まで生きていた1人だからです。それにアラモ砦の戦闘の前の下ネタもありましたしね。最後にF・U・B・A・R


あたしも映画版はDVD持ってるのでたまーに見ます。でも時間の制限があって原作の面白エピソードがだいぶカットされてるのが残念。
アパム弾持って来い!があまりに有名すぎてメリッシュより目立ってないようなライベンですが、BARをぶん回す姿やアラモの下着談義はさすがニューヨーカー。
彼の名前を出した以上、作品がフーバー(見るも無残な大失敗・愚行の極致)にならないようにしないと。

>フォートバスターズってアメリカ陸軍第160特殊作戦航空連隊の本拠地のフォートキャンベルからの由来ですか?

米軍では駐屯地などにフォート(砦)が付くことが多いみたいです。フォート・キャンベルもそうだし、フォート・ブラッグ(第82空挺師団司令部。ノースカロライナ州)だったり。
南北戦争とか独立戦争、はたまた先住民との小競り合いの時代から何らかの砦があって、そこに軍隊が駐留したって考えていいんじゃないかなー。

今後も時間とスペースがあればお答えしますのでどしどしご応募くださいー。相坂でした。

【次へ】

【戻る】