2200時。
相変わらず雨は止むことを知らず、むしろ状況は劣悪になりつつある。
濡れた服や下着が重い。寒気すらする。所詮私は女なのだろう。どんなに男を気取ったって。
夜襲斬り込みをする度胸のない連中と分かってはいるが、身軽な件の金髪ツインテがどう出るか、それを知りたい。
「寒いわね」
フィールドジャケットのジッパーを、さすがに完全閉鎖した相坂女史が誰に言うでもなく呟く。
「夏の雨はカラダに堪えるな、別の意味で」
念のため同意してみる。微笑む彼女。
「ナハトたちは後方でいいものね。スイちゃんも大砲の前でよだれ垂らして寝ている頃でしょうし」
「スイ女史はそんなに緩いのか?」
「それはもう。妙に勘は鋭いけど緩くて見てるほうが心配になるわ」
双眼鏡を手に再び前方の掌握作業に戻る彼女から、それを奪う。
「ゆいちゃん?」
「ゆいちゃんと呼ぶのはやめろ。そして少し休むといい」
「…お言葉に甘えたいけど、あたしベッドじゃないと眠れないのよ」
贅沢なヤツだ。川に沈めてやろうか。そのような黒いことを考えながら彼女を制する。
「ローテーションで休まないと、全員が疲れのピークに達して寝てしまった瞬間敵の思う壺だ。対岸からの援護射撃は期待できん」
「…それもそうか。じゃおやすみ」
「うむ」
前線で今まさに敵を捉えようとしている我々だからこそ出来ることもある。対応が遅れることはそれだけ痛い目を見るということだ。
ほんの10秒程度で寝息を立てる相坂女史の寝首をどう掻いてやろうか、そんなことを思い浮かべながら、私は前方を警戒した。


 「ところがぎっちょん!スイさんは楽しくなるとかえって寝れない子だったのだ!」
どもー。戦場特派員アーンド砲撃手のスイさんです。きっと対岸では来ヶ谷ゆいちゃんかときるんあたりが『スイはとっくに寝てるー』などと
人を子ども扱いしているかもしれませんが、遠足の前の日に眠れなくて結局遠足から帰ってきた後2日間眠ったままだったという伝説のスイさんにとって、
この戦場では眠れないのさ!だって!

寝ちゃったらまだ起きてるこまりんをハグできないぢゃまいか!

 「んにゅー?スイちゃんー?」
「おうこまりん、あたしはここにいるぞー」
「うんー」
そうだそのまま眠りに落ちてしまうのだー。そしてあたしの術中に堕ちてしまうのだー。
「しかしスイの姉御よぉ。昼間のあの紅い煙なんだったんだ?」
真人くんが割り込んでくる。っち。あたしは今こまりんとおしゃべりしてるんだ!筋肉だるまはひっこんでやがれー。
でも答えないほどいぢわるなスイさんではないのです。砲弾を投げてラベルを見せてやる。
「おっと!落としたら危ねぇじゃねぇか!」
「うん危ないよー。ここにいる子みーんな痛い目に遭うよー。落としたら真人くん川に放り込むからねー」
「な、なんだってー!」
と警戒しながら見たその砲弾にはきっとこう書いてあるのが見えるはずだ。
「…ハバネロ弾……だと?」
そう。昼間の砲撃に使ったのは、これまたスイさん特製、紅い煙幕と同時に多量のハバネロパウダーが撒き散らされる、まるっきり暴徒鎮圧用に使えそうなアレ、
ハバネロ弾だったのだっ!勿論ハバネロ以外にもホントは使いたくないけどシュールストレミング弾と、くさや弾も用意しておいたー。
「あ、この黄色のラインが入ってるのはシュールストレミング弾。臭さのあまり死人が出るからこれでキャッチボールしちゃダメだぞー」
「するかっ!」
あ、鈴ちゃんが起きた。
「さっきから臭いだのいたいだのうるさいぞっ!あたしは眠いんだ!」
「うんー。でもスイさんは眠くない」
「ふかーっ!」
安眠妨害した覚えはないんだけどなー?とりあえずあと、照明弾も用意してある。
「謙吾くんにも迫撃砲弾であげたけど、照明弾が上がったらすぐ砲撃始めるからねー。みんなそれとなく休んだほうがいいよー?」
「うみゅ」
「おうよ」
「私は、寝たらスイちゃんに何かされそうだから我慢するよー」
見破られてやがった!てへり。
「何にもしないから寝たほうがいいよー」
「だいじょーぶ、だよー」
っち、そのタイミングで使いますか。
ともあれ、前線がまだ沈黙してるからぶっ放すわけにも行かず、ウズウズしているスイさんなのでした、マル


 ガサッ。
0345時、草を掻き分けるような音がした。夜襲か。我々も身構える。
「謙吾少年」
「あぁ。だが位置がばれるぞ?」
「何。相手も同じ条件さ。出たとこ勝負でけん制する」
謙吾少年はスイ女史から迫撃砲弾と別に照明弾を木箱で6発ほど受領している。早速その初陣と言うわけだ。
「ただし、スイなら照明弾が上がった瞬間絶対ぶっ放すから、先に無線飛ばしなさい。っつーかあたしが飛ばす」
相坂女史も目を覚ましていたようで、私に機関銃を任せると、丘に陣取っているスイ女史に無線を飛ばし始めた。
「こちらリトル・アヴェンジャースカウト(斥候隊)、スイ、今から照明弾上げるけど間違って砲撃したら後でオシオキするからそのつもりで」
『がってんしょーちのすけっ!あたしも今こまりんの寝顔を写メしまくるのに忙しい』
しかも戦場で自分の変態的趣味を存分に満喫していた。おのれ。後で携帯を奪って写メをすべて接収せねば。
かくして謙吾少年が音のした方角に向けて照明弾を発射する。それは森の上で景気良く破裂し、まるで昼間のような明るさが世界を包み込む。
「そこかっ!」
相坂女史が双眼鏡をトンプソン銃に持ち替え音のした方向に一斉射撃する。小気味よい発射音。藪を突き抜けそれが何かに当たる。
「きゃうんっ!」
犬か?そう思ったが犬のシルエットではない。それは。
「杉並女史か」
「なんですって?」
フラフラと、足取りおぼつかない状態で現れたソレは、相坂女史の一斉掃射を受けて地面にくずおれた。
「衛生兵!」
「はいっ!」
相坂女史の指示で佳奈多君が弾丸のように、くたばったインディアン…杉並睦美に駆け寄る。そして彼女を引っ張り土嚢の側まで戻ってくる。
「意識はあります。傷は負っていない様子!」
「当たり前でしょ。そう思っておでこを狙ったんだから!」
なんという悪どい女だ、キミは。周囲が呆れる中、杉並女子は銃器に包囲される。
「ふ、ふぇぇぇぇ…」
そしてその恐怖に、彼女は思わず尿失禁する。おや、良く見ると制服のままではないか。その制服では二度と学校には来れまい。
しかし、美少女の尿失禁は役得だな。眼福眼福。満足したところで早速殺すとしようか。腰のククリナイフを取り出し、奴の首筋に当てる。
「ひっ!」
「残念だったな。ゲリラには捕虜の権利はない。発見後即座に殺害されても文句は言えないのだよ。それが戦時国際法の規定だ」
ククリナイフの破壊力は、人間の首程度なら狙いどころ次第では刎ね飛ばすことなど容易。惜しいが理樹君を奪おうとするライバルは、少ないに越したことはない。
「幸いここは私有地だしな。殺して埋めても誰も探しには来ないだろう。キミは行方不明者として処理されるだけだ」
「ほ、他の子も、同じように…っ?」
何を当たり前の問いを。ククリナイフの刃で、軽く撫でてやる。
抵抗のあったその箇所から、血が滲み出す。
「当たり前だ。貴様らは私を本気で怒らせてしまった。これより天誅を加える」
恐怖のあまり、目や鼻から次々に垂れ流し。なんと不細工なことか。どんなに着飾っても所詮女か。
「ちょっとゆいちゃん、やめなさい」
すると、それを制するもの。
「いい加減ゆいちゃんと呼ぶのをやめないと、まずは貴様から始末する」
「それは無理な相談ね。捕虜の権利はないにしても、ここで一撃で殺すのもつまらないでしょ?どうせなら尋問と称して厳しい拷問でもやっちゃいましょ」
なるほどソレは名案だ。
「じわじわと人間性を否定しながらの嬲り殺し。この子には悪いけどイロイロゲロってもらいましょ」
言いながら、杉並の腹に鉄拳を叩き込む相坂女史。何だ、貴様のほうがより鬼畜ではないか。
しかし、今わの際、彼女が口から吐き出したものには、不思議なことに食物などが一切見当たらなかった。
「補給でも寸断されてるのかしら」
「だろうな。よし、後送しよう。こちらリトル・アヴェンジャースカウト。前線にて敵の構成員を一名捕らえた。これより司令部に後送したい。後方より2名派遣されたし」
『了解した。リトル・ヘッジホッグスより棗一等兵、リトル・レイダースより三枝二等兵、前へ。相坂と来ヶ谷は捕虜を連れて司令部へ出頭せよ。オーバー』
「了解。通信終わり」
その後しばらくして後方より交代の鈴君と葉留佳君が合流。私たちは飛び石を飛んで川を越え、対岸に擬装していたジープの後部座席にそれを積み込むと、
抵抗できないよう腕と足を縛り、それぞれをジープの手すりに固定した。
「これで暴れてもなんらの障害にもなるまい」
「そうね。それじゃ出発」
ジープのエンジンがかかり、鉄の心臓がガソリンを飲み始める。
マシンは凄い勢いで坂を登りきり、そのままフォート・バスターズに向けて爆進を開始するのだった。


 ジープはものの15分程度で森を抜け、フォートバスターズの東門、森側の入り口に差し掛かる。
「フラッシュ、ですわ!」
笹瀬川女史が大声を上げる。即座に、電気信号でも走ったかのように相坂女史が答える。
「サンダー!門を開けて。捕虜を連行したわ!」
「承知いたしましたわ!」
ギィッ。鉄のフェンスが開き、ジープがその中に吸い込まれる。司令部のある中心地までほんの僅かだ。
ブレーキ。そしてサイドブレーキを引っ張り完全に停止する車両。手すりに固定していた杉並女史の縄を解くと、制服の裾を引っ掴み、引き摺りながら連行する。
「来ヶ谷伍長他1名、捕虜連行完了」
「ご苦労。さっそくだがユリア、捕虜は任せた」
「承知しました」
この女狐…ユリアといったか。どうもこの女は恐ろしい。美少女や可愛いものを見ると、ある種のサディスティックな別の顔を見せる。
「ときるんちゃん、来ヶ谷さん、手伝ってください」
「えぇ」
「あぁ」
そして向かう先は…司令部テント横の大きな木。
「まずはこんな汚いものひん剥いてしまいましょう」
彼女は私からククリナイフを無許可で取り上げると、未だ気絶したままの杉並女史の制服を無我夢中に切り刻み始めた。
夏服のシャツとリボンを斬り、ブラのストラップとフロントを切り裂き、スカートを縦一文字に裂いて、ショーツだけの姿にする。
「まぁ。おもらししてるのね。可愛らしい。そんなお子様が来るべき場所ではないでしょうに」
「…母性本能かサディスティックなのか分からんな。実に度し難い」
放っといてください。それだけ言うと、彼女は杉並女史の手を縛っているロープをその中でも一番太い枝に引っ掛け、リフトアップする。
そして更に両側にロープを2本垂らし、脚を持ち上げ、M字開脚で固定する。空中M字開脚の完成だ。
「…これはなかなか」
「でしょう?これぞ拷問というものです。可愛いものを傷つけるのはイヤですけど、どうせやるなら徹底的に、ね?」
そして司令部からM1ガーランドライフルを持ってくると、それに銃剣を取り付ける。それは、杉並女史の股間の僅か下に設置される。
「暴れれば酷い目に遭うでしょうね。ヘタするともう子供を産めないカラダになるかも。そして酷く暴れるようなら縄を斬ってそのまま串刺しに」
「……えげつないな、キミは」
「そうですか?至って自然ですよ。ゲリラ相手には」
冷静に、かつ凶悪に。恐ろしいものを味方にしてしまったようだな、我々は。
裁きの軍神、ユリアは、哀れな雌豚が目を覚ますのを今か今かと心待ちにしているようだった。
「ところで、理樹君は?」
気になることなのでそれとなく聞いてみる。まさか『処理』されたなんてことはないだろうな。
ユリア女史は首を横に振るだけだった。
「それはどういう意味での首振りだ?」
「…お話できません。緘口令が敷かれているので」
「…」
ククリナイフに手を掛けようとするが思いとどまる。我ながら愚かなことだ。
だがここでナイフを抜けば私も反逆者。そして反逆を助長したとみなされる理樹君がどうなるかなど、あえて言うまでもない。
「ヒント程度もくれないの?」
「えぇ。いくら相手がときるんちゃんでも、こればかりは聞けません。ごめんなさい」
相坂女史にもこの言葉。恭介氏に何を怯えることがあるのだろうか。ただ、彼女が言わんとしていることはなんとなく察することが出来る。

『しゃべれば、それこそ彼は危険なことになる』

 仕方なくその話題は終わらせ、目の前の惨めなブタが起きるのを待つことにした。


 第5回は前線でのちょっとしたトラブルと対処が終わったというお話。次回いよいよ杉並さんが拷問される予定です(鬼
なお、杉並さんには裁きの軍神ことユリアさんからこんなリクエストが届いています。

「どうせなら優しくして、そしてどんどん吐かせてくださいw」

ところがぎっちょん!それをしないのが相坂なのだ。
次回ユリアさんがどんな拷問をするか乞うご期待!相坂でした。

なお、7月5日の拍手で答えを送ってくれた方ありがとうございました。残念ながらロケットやシャトルの燃料タンク内部に使われるアレではなく、
単純にハバネロ弾でした。

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