夢…。
夢を見ている。
遠くから聞こえる鳥のさえずり。
『お兄ちゃ〜ん』
どこからともなく聞こえる、兄を呼ぶ妹の声。
『はむっ』
ほっぺを甘噛みされる感覚。
「うっ、うわぁぁっ!」
思わず、その物体に拳骨していた。


ほんのりまたーり理姫小ネタ『ましゅまろ。』


 「ね、ねぇ理姫機嫌直してよー」
「…ふーんだっ」
頭に某クレヨン坊やよろしくコブを作った理姫が、ぷんすかと頬を膨らまして、某セブンイレブンで販売中の
プチチョコシューをぱくぱくと口に放り込み頬張る。よほど逆鱗に触れたのか。いや待って欲しい。
「そもそも理姫が悪いんだよ?」
「妹の愛の篭った接吻を悪意って取るなんて、お兄ちゃんいぢめっこ〜」
それだけ言ってまたチョコシューを放り込み始める。食べ過ぎると太るよ。
「お兄ちゃんにとってはその程度でも、私には凄く勇気がいるんだから〜」
いや、兄の前で平然と下着姿になる妹がそれをのたまうか。
昨日だってトイレに施錠してなかったのは見逃さなかったよ。物音がしたから入らなかったけどさ。
「理姫、とりあえずゴメン」
「…分かればいいんだよ〜」
とりあえず折れておかないと後が厄介だからね。理姫もそこはかとなく機嫌を直してくれたようだ。
これでやっと安心して二度寝を…。
「かぷっ」
「ひゃわっ!」
さくっ。条件反射で理樹ちょーっぷ。
「うぅっ、またぶったぁ!」
「り、りりりりりり理姫何してるのさぁ!」
「うー!いぢめっこお兄ちゃんには教えないっ!お兄ちゃんなんか知らないっ!」
何か途轍もなく理不尽だ!
「お兄ちゃんがいけないんだよ!?男の子なのにそんなマシュマロみたいなほっぺしてるから!」
「僕のせい!?ってかなんでそれで怒ってるのさ!」
「怒ってないもん!理不尽にキレてるんだもんっ!」
「同じだぁ!」
理不尽って自分で思ってる時点で歪みねぇな。あれ、僕ゲイじゃない…。
「お兄ちゃんなんかマシュマロの角に頭ぶつけちゃえ〜!」
「角ってあるの!?ねぇ教えてってあー、出ていっちゃった…」
うーん、珍しく理姫が怒ったなぁ。
オヤジにもぶたれたことないから?いやソレはあまりに不謹慎だ。
「ふぅ」
妹がいなくなったからとりま、二度寝でも…。
「…」
出来ない。脳内のどこかで心配してるのかな。僕らしくないや。
「ふぅ…」
仕方ない、機嫌を直しに行こう。
僕は大好物のポテトチップス BBQハンバーグ味(期間限定秘蔵品。ホントは折を見て一人で食べようと思ってた)を手に、
理姫探しに出動したのだった。


 「ふむ。で、理姫君を探しているときに私とコマリマックスに遭遇したわけだな」
「分かったらさっさと釈放してよ」
「五月蝿い黙れ」
「…」
てか、さっきから小毬さんが獲物を狙うワシのような目で僕の手のポテチを狙ってるんですけど。
「じゅるり、うぅ、この秋の期間限定品…」
お菓子が絡むと尋常じゃない馬力を発揮するからなぁ。掻っ攫われないように気をつけないと。
「てっきり私のお茶会のために持ってきてくれたのかと思ったんだが」
「そんなことする人いないと思うよ…」
「何だと貴様」
何か色々フラグ立てすぎた!
ともあれ、理姫を探して寮内を歩き回ったが情報ゼロ。仕方ないから学校まで進出したら、いつもの中庭で、
今日は珍しく小毬さんとお茶会をしている来ヶ谷さんに拉致られたわけだ。
「うむ。コマリマックスが『秋風びゅーびゅー寒いよー』などと若者らしくないことを言いながら歩いていたからな」
「若者でもこの風は寒いし、来ヶ谷さんも同い年だから」
「温かいコーヒーを馳走する代わりに、ちょうどお茶会の茶菓子がなかったからな、等価交換で分けてもらったのさ」
しかも棒読みの小毬さんのマネ、もうちょっと似せようよ。
でも確かに今日は寒い。
理姫、今頃どこかで寒さに震えてガクガクブルブルしてないだろうか。心配が募る。
「ね、ねぇ僕そろそろ」
「…理姫君が気になるのかね?」
「…そりゃそうだよ」
兄だもん。
少なくともここに兄というキャラは恭介と僕くらいしかいないから、そんな感情が分かる人がいるわけない。
だからこそ、心配なんだ。
それじゃ、と立ち上がろうとするが、瞬時に来ヶ谷さんの胸が僕の頭に載り、椅子に押さえつけられる。
うーん、ヘタな文鎮より重いZE☆じゃなくて!
「く、来ヶ谷さんっ」
「少なくとも今の理樹君が理姫君に会いに行ったところで、また喧嘩になるだけだろう?それでは意味がない」
「時間が解決してくれるのを待つ。少なくとも今の理樹君にはそれが上策だ」
そんな器用なことが出来ないから、僕は困ってるんだ!
来ヶ谷さんは、そんな僕の焦りを悟ったのか、ポツポツと語り始める。
「まぁ理姫君の貞操が心配なんだろう、兄としては?」
全然語ってなかった!
「そ、そうじゃなくて!」
「はっはっは。まぁなに、心配することはない」
理姫君のことだ、おおかた兄のことが心配でそう遠くにはいけないさ。
まるで自分の妹のように語る来ヶ谷さん。何が分かるのだろうか。
「同じ女の直感さ。まぁ、私はそんな感情など持ち合わせてはいないが、空気の流れを察すれば分かることだ」
「…」
相変わらずよく分からない人だ。
そんなことを考えながら来ヶ谷さんの胸を感じている…って!
「いい加減胸どけてよ」
「なんだと。私の知る理樹君なら『ひゃっほ〜ぅ、こいつぁとんだ役得だぜグヘヘヘヘ』と勢いで胸を後ろ手に揉みしだくはずなのだが」
これは予想外の反応だ、おねーさんがっかりだよ。
僕って来ヶ谷さんの中でどんなキャラなんだろう…。
ちょっと心配になりながら、胸の下で頭を動かし抗ってみる。
「んふぅっ…」
甘い声!逆効果だった!
「ふぇぇ…ゆいちゃん、そろそろ解放してあげようよー」
「うむ。コマリマックスが私のことを金輪際ゆいちゃんと呼ばないと誓うまで辞めない」
「それはムリだよー」
小毬さんがやけに黒かった!
「小毬さんっ!今日だけゆいちゃんって呼ぶの我慢してよ!」
「んー、ムリー、かなー?」
「えぇっ!」
努力する前から諦めてるよ…。
なんて思っていると、妥協案が提示される。
「でもー。理樹くんがそのBBQハンバーグ味を、このマシュマロと交換してくれるなら、考えなくもないよー?」
前言撤回。漆黒だった!
「ねー、どうするの理樹くんー?」
「う、うぅっ…」
でも、どうやら断れそうにはない。断るだけ堂々巡りになって、大事な時間をロスしてしまう。
秋の限定品。まだ秋は終わってないんだから、また街に行ったときに買ってくればいいさ。
理姫の心は買えないんだから。よしっ。
「分かったよ、交換ね」
「わーいっ」
小毬さん、本気で嬉しそうだよ…。
「ちょっと待て、私はそれで解放するとは一言も言ってないぞ」
「ゆいちゃん、ワガママはダメなのです」
「うぐっ、ゆいちゃんと呼ぶのはやめろと…」
「ゆいちゃんー」
「ぐぅっ」
あの来ヶ谷さんが押されている!
一番ワガママなのは小毬さんだよ!とツッコミ入れたいけど、スルーもツッコミだ。
今度からこう言えば逃げられるんだな、と新しく逃亡スキルを手に入れた僕は、ひるむ来ヶ谷さんのおっぱい呪縛から逃げ出した。
「…」
って。手にはマシュマロが一個。
「…騙された」
誰もマシュマロ一袋とは言ってなかったもんね。小毬さん、きっと世紀の大詐欺師になれるよ。きっと。


 「…」
理姫はあっさり見つかった。
ちゃんと部屋に帰ってきていた。空気清浄機を全開にして、その前で相変わらずチョコシューをぱくぱく。
「理姫ー」
「…ふーんっ!」
威嚇。あぁ、頬膨らました威嚇って案外萌えるんだね。
じゃなくて。
「機嫌直してよ」
「ヤダ」
「むむむ」
ちょっと苦戦しそうだなぁ。コレ。
「お兄ちゃん、私に黙ってBBQハンバーグ味、どっか持っていったでしょ」
「…気付いてたの?」
「うん。もう絶望したよー!腹いせに全部食べちゃったんでしょ!」
しかも怒ってるのはそっちだった!
「いやいやいや、理姫が怒って出て行ったのはそれじゃないでしょ」
「はっ、そうだった。むー!お兄ちゃん嫌いっ!」
墓穴だった!
「いいもんっ!グレてやるんだからっ。髪染めて、ピアス開けて、タバコ吸うんだもんっ!」
古典的な非行だった!
「ってソレくらいで非行に走らないでよ」
笑いながら、理姫に接近する。
「それくらいって…あれ、これ」
「うん、マシュマロ」
「…」
お兄ちゃん、マシュマロの角探してたの?クリクリした大きな目が語りかける。
ちゃっかりその辺は覚えてるんだね。まぁいいや。
「角見つからなかったからあげるよ」
「…」
やっと理姫の顔が少し、和らいだ。
「でもお兄ちゃん、それとポテチを交換した、とか言ったら、本気で怒っちゃうんだから」
見破られていた!
いや、まだ見破ってはいない、憶測だと信じよう。
「そんなことはしないよ」
「だよねー。いくらお兄ちゃんでも、そこまでしちゃうようなおバカさんじゃないと信じたいよー」
「…」
そのおバカさんですサーセンwwww
って相坂さんっ!相坂さんじゃないんだから僕のキャラ壊さないで!
こうなりゃもうヤケ。
僕は、空気清浄機の前に座り、マシュマロをほっぺにつける。
「お兄ちゃん?」
「これなら…パクッってしても違和感ないでしょ?」
「お兄ちゃん…」
あ、嬉しさのあまり理姫が自然発熱してる。ちょっと温かいかも。
「ぽ〜っ…」
「理姫、しなくていいなら外すよ?」
「あ、するするっ!ぱくってするからちょっと心の準備させてっ!」
ワガママなお姫様だなぁ、なんて思いながら。理姫のぱくっ、を待っていると。
「ぱくっ」
「んっ…」
「えっ?」
あれ、パクってされたのに、なんでしたはずの理姫がビックリしてるの?
っていうか、これマシュマロだけじゃなくて僕のほっぺを吸ってますよね明らかに!
「…えへっ。直枝くんほっぺ、いただきですっ♪」
「す、すすすす杉並さんっ!?」
いつの間に!?
「む、睦美ちゃん!?」
理姫が思わず『げぇっ!孔明!』って顔をしてるよ。
「この間の復讐よ、直枝理姫っ!これで分かったでしょ?直枝くんは私のものっ!」
「…」
頬にくっきり鮮明キスマーク。あぁ、こりゃ明日冷やかされるなぁ。
「お兄ちゃん…最初から睦美ちゃんと…私をいぢめるつもりで…」
しかも理姫は理姫でまったく見当違いの想像をしていた!
この後理姫のご機嫌取りに4時間を費やしたことを付け加えておく。そんな秋の日のある日曜日のお話だったとさ。


あとがき

リハビリテーション。ってことで書いてみました理姫ちゃん。
本家よりも書いている本数は多いのですが、本家のほうは濃厚濃密な萌えを書いていらっしゃるので、
あたしの作品群など、所詮は寡勢でしかないのだと思い知らされます。
だから今日はエロに頼らない作品を書いてみたけど、どうかなぁ。
最後の最後で杉並さんが出てきたのは途轍もなく予想外なんだけど。
次回は、理姫と睦美の対談でも書いてみようかな。相坂でした。

※1回目読み終わった方へ。
 真・恋姫†無双の桃香ちゃん(デフォルメVer.)がほっぺを膨らませている姿を理姫と重ね合わせて読むと、
 思わず恋姫SS読んでる気分になれるわよ。あ、それはないか。

【直枝くんは私のものっ!】

何言ってんのあたしのものよ。