「あ、違うよお兄ちゃん、ここはx=√5を代入して」
「あ、そっか」
久々に雨の休日。渋る僕をベッドから引きずりおろし、部屋の掃除を終えた理姫は。
『遊びに行けないから宿題しちゃおうよ』
いや、あの、今度は当てられる日じゃないから別にいいよって言ったんだけど。
(口が裂けても来ヶ谷さんとお茶会するからサボる予定ですなんて言えませんチキンでサーセンwww)
『当てられる予定の人が休んだらお兄ちゃんかもしれないんだよ?間違っちゃうなんて妹として恥ずかしいもん』
むむむ。理姫にしては珍しくシモとかゲヒで来なかったな。そういうことなら。
ってことで今に至る。
「じゃあと一問だね。ここはもう教科書ちゃんと読んだら分かるところだからわたしの写させてあげるね」
その代わり、ちゃんと自分で復習しておいてね。理姫が何となく先生に見えたのは気のせいだろう。
お言葉に甘えて理姫の解答を超高速でノートに写す僕。理姫の解き方も綺麗な字も歪みないなぁ。ん、僕ゲイじゃない…。
こうするとなんか、真人の気持ちがよくわかるよ。もしも縁があってあの部屋に戻れたら、真人に宿題写させてあげよう。
…帰れたら、ね。
「終わったぁ…」
「うんうん。これで明日は心配ないね。それじゃさっそく」
何かをして遊ぶつもりだろうか。手にはトランプ。
「頑張った後のクールダウンだよー。七並べする?ババ抜き?わたしとしてはポーカーもお勧めかなぁ」
いやいやいやまだ誰もするとは言ってませんが。
とか言ったら後が怖いから言えないチキンな僕最近だらしないなぁ。ん、僕ゲイじゃない…。
と、その時だった。
バタンッ!全力でドアが開く音。ってかノックなし?
「直枝くんっ!分からない問題があるのっ!」
「杉並さん?」
「睦美ちゃん?」
「……げっ、直枝理姫っ!?」
そりゃそうですよ、ここ理姫の部屋なんだから。
「不覚…っ!」
ノックもしないし飛び込んできて露骨に嫌な顔するし、理姫にとってはいい迷惑…。
「睦美ちゃんもトランプしようよ♪あ、ココア淹れるねー」
迷惑にすら思ってなかった!
「ね、ねぇ理姫、ちょっとは本音を言ったほうがいいよっ」
さすがに杉並さんの前で直接悪口は言いたくないので、理姫に耳打ちすると。
「本音って?」
「いや、だからほら、仮にも他の部屋なんだからノックくらい、とか」
「あー」
そういえばそうだったね♪
理姫はすんごい笑顔で僕にウィンクしたあと、まだ頭を抱えでドアの前でうんうん唸ってる杉並さんの斜め前に立ち。
ばっ。
「!?」
「!!!!!!!?」
なんと、杉並さんの紅いチェックのスカートを全力でめくりあげた!
その先には、すごく際どいハイレグの、黒いフリルと黒の水玉がついた、白パンティ様が控えあそばされていました。
「ノックなしなら、わたしもノックなしスカートめくりー♪」
スカートはノックできないよ。あはは。それにしても杉並さんの下着っていつも可愛いなぁ。
本人からは想像できないや。きっとお母さんに選んでもらってるのかな。こう、年頃の女の子なんだからって…。

って何冷静に語ってるんだ僕!!!

「り、理姫っ!」
「…」
ばたきゅ〜。杉並さん、恥ずかしさのあまり顔真っ赤にしてダウン。

直枝理姫○V.S.×杉並睦美(はぴねすスカートめくり)


理姫と睦美の馴れ合いSS『心愛(ここあ)』


 「…」
杉並さん、さっきからずっと沈黙しっぱなし。
あの後杉並さんはなんとか立ち上がれたものの、どうにも僕に下着をモロ見られたというのが意識の中にあるのだろうか。
理姫に何もせず、そのまま部屋に戻ろうとしてダッシュ。そこをさらに素早い理姫に捕まえられて。
円卓の前の椅子に、腰掛けています。
今理姫はココアの準備中。なんでも来ヶ谷さんから本場オランダのココアをもらったらしい。
『私は残念ながらコーヒーと紅茶が好きでな。ココアは嫌いではないが需要が薄いのだよ。兄と飲んでまったりするといい』
だって。まったりと何をさせるのか知らないけどね。
「あ、あの、直枝くん…?」
「ん?」
ふと、杉並さんが僕に話しかけてきた。
「さっき、あの、私の…見えたでしょ?」
「………」
ここでうん、モロに。むしろすごいハイレグ具合で場合によっては具まで見えそうでしたよごっつぁんです!って言ったほうがいいのか。
それとも話をそらしたほうがいいのか。それとも素直に疑問を呈したほうがいいのか。
「ねぇ、杉並さんって下着、自分で選んでるの?」
「!!!」
ってちょっとは自制しようよ僕。最近無意識に次の発言を紡いでる気がして怖いんだけど…。
「…あのね、直枝くんは、どう思う?」
「っ」
あぁ、しかもここぞとばかりにノリノリですよこの方。

コマンド?
  たぶんお母さん
  自分ででしょ?
ニア高宮さんと勝沢さんかなぁ…

「高宮さんと勝沢さんと一緒に選んでる気がするかな。ほら、友達同士で選ぶと楽しいってバスターズの子たちも言ってるし」
はい、主に葉留佳さんと来ヶ谷さんですサーセンwww
「……ぶっぶ〜♪」
うっ、今のぶっぶ〜♪結構ツボだったかも…。だって絶対そんなこと言いそうにない人だと思ってから。
目の前には、普段とは想像もつかない、自然体な杉並さんの笑顔。
「二人とは休日はあまり遊ばないの。男の子たちと遊んでるんだ、二人とも」
一度杉並さんも誘われたけど断ったらしい。何をしているか想像できないけど、何となくあの二人なら話が分かる気がする。
結構いい噂聞かないもんね。思えばこんな優等生な杉並さんとあの二人が友達ってのがイマイチ理解できない。
「じゃお母さん?」
「ううん、それもハズレ」
お母さんは年頃だからって派手なのはダメよってしか言わないの。
うん、僕がお母さんならそう言うと思う。それくらいあのハイレグはアレすぎた。僕じゃなかったら襲い掛かってるよ。
なんか僕がヘタレみたいな言い方だけど仕方ないね。あれ、僕ゲイじゃない…。
「じゃ、杉並さん…?」
「…」
こくん。恥ずかしそうに頷いて。
「選ぶときにね、大好きな人を思い浮かべるの。見せた時、喜んでくれるかなぁ、って」
「…」
なんかその大好きな人がちょっとだけ、羨ましくなった。
こんな風に思われてるなんて、彼は知ってるんだろうか。
……まぁ、今までの行動を考えればきっとそれは自惚れ抜きで僕なんだと思うけど。
「いつかその人に喜んでもらえるといいね」
「……鈍感」
「えっ」
「な、なんでもないよっ!?」
またこれはこれはセオリー通りの返しですね。
なんて話をしている間に、ココアとお茶菓子の用意が終わったのか、理姫が来る。
「へぇ。睦美ちゃん、自分で選んでるんだー」
「なっ、あ、あなたには関係ないもんっ!」
「ぶー」
「あ、あはは…」
相変わらず進歩ないなぁ、この二人。
理姫は意に介さず、ココアを杉並さんと、僕の前に置き、最後に自分の席にココアを置くと、着席したのだった。


 「わたしはいつもお友達に選んでもらってたんだぁ。わたしそういうのよく分からなくて」
見せるのはお兄ちゃんだけだし、別にお兄ちゃんが気に入ってくれるなら無問題だよー。
そのセリフに杉並さんの頭に青筋がピキッって浮いたのは気のせいってことで。
「そう言えばこの間はお兄ちゃんに選んでもらったよねー」
「ぶっ!?」
「り、理姫っ!?」
杉並さん、盛大にココアをリバース。
この間というのは忘れもしない、変装杉並さんと初めて邂逅した日のこと。
そう言えばあれからそんなに時間経ってないのに、なんかこう、すでに打ち解けている僕ら。
もしも、の話で。

 理姫という起爆剤がなかったら、僕と杉並さんは、どれくらい仲良くなれただろうか。
案外お互い遠くから見ているだけで、僕は恭介や真人に振り回されて、分かり合うことはなかったかもしれない。
理姫がいてくれたから、僕と彼女は、こんなにも近くにいるんだ。
「…」
ふと、隣の杉並さんと視線がぶつかる。とても柔和な瞳。
茶色の双眸に映る僕。理姫にもこんな視線向けてくれればいいのになぁ。それはわがままなんだろうか。
「睦美ちゃん、お兄ちゃんが好きなの?」
「!?」
すぐさま敵愾心むき出しの目線が理姫に注がれる。
「あ、あなたには関係ないもん!それにいつどこで私が睦美ちゃんって呼んでいいって許した!?」
「んー。許してもらってないけどお友達だもん」
エンジェリックスマイル。この女神様には悪魔も敵いません。
「むーっ!」
ぷいっ、とそっぽを向く。でも、叩いたりしないあたり、本心から嫌っていないと思う。
素直に、なれないだけなんだ。
「ねぇ杉並さん」
「え、な、なに?」
こんな姿を見せたから、気まずいのか、杉並さんは俯き加減だ。
そんな彼女に、僕は。
「僕からもお願いしたいな。理姫と仲良くしてあげて欲しいんだ」
「…」
躊躇。それは火を見るより明らか。
分かってはいるんだ。明らかに第一印象が最悪だったし、天然な理姫は杉並さんの怒りに油を注いでばかりだった。
なぜ怒っているのか、僕だって分からない。でも、最近それは怒りじゃないんだと知った。
ただの嫉妬。嫉妬から来る反発衝動。だとしたら。
僕が間に入って緩衝材になれば、少しは変わるんじゃないだろうか。
「…」
戸惑いが何かのひらめきに変わったのか、杉並さんは。
「…睦美」
「え?」
「直枝くんが私のこと、睦美って呼び捨てにしてくれたら、今より親密になってあげる」
「えぇっ!?」
予想外の反応だった!
「私も直枝くんのこと、理樹君って呼ぶから、ね?」
「…」
これは、ちょっと僕にも勇気のいることです。これなら理姫と多少険悪でも…ってそれはダメだ!
何より、理姫に僕以外の遊び相手が出来るチャンスなんだから、ここは引き下がれない。
「え、えと…む…む…」
「…(ごくっ)」
杉並さんが思わず唾を飲み込む音が部屋にやけに大きく響き渡る。
覚悟を、覚悟を決めなければ。
僕は。
「む…むつ…むつ「ムツゴロウさん♪」ムツゴロウさん!」
え、ムツゴロウさん?動物王国?ライオンに指噛み切られたあの人?有明海名物?
「えへー」
理姫のリバーストラップが発動しただけでした。
「な、なななな、直枝理姫ぇぇぇぇぇぇっ!」
「きゃんっ♪」
いつかの展開と同じように暴れ始める。もう、遊ぶなら他所でお願いしたいなぁ。
そう、例えばグラウンドとかで。ってそれは危ない気がする。何が起こるか分からないしね。
あぁ、ココアが美味しいなぁ。

 プチプチプチっ!ブチィッ!
なんか不協和音が響いたな。
「どうしたの…ッ!?」
「あ」
「……」
杉並さんが固まってます。
ブラウスが見事なまでにボタン全損。
そして、ぱんつとお揃いの柄の、とっても可愛いフロントホックブラが吹っ飛んで、その、可愛いさくらんぼ(爆)が丸見え。
「……」
「理姫ぇぇぇぇぇぇっ!」
「わぁっ。睦美ちゃん大胆だよー」
「誰のせいよ誰の!もう怒った!理姫も裸にしてやるんだから!」
「いいよー♪お兄ちゃんを悩殺ー」
「むぅっ!」
あぁ、なんか鼻を伝う暖かい液体がイヤな感じ。これって鼻血なのかな。あ、赤いし鼻血だ。トマトジュースじゃないや。
「でも今、理姫って呼んでくれたよね」
「っ」
押し倒されながら、笑顔を絶やさない妹様。
「睦美ちゃん。これでわたしたち、本当のお友達」
「…」
ふと、杉並さんの手が止まる。そして。
「こ、このお返しは必ず来るから!」
「うん、待ってるよー」
「…ふんっ!」
バタン。杉並さん、退室。

 「ねぇお兄ちゃん」
「ん?」
静けさを取り戻した部屋で、理姫が問いかける。
「いつか睦美ちゃんと一緒に遊びに行きたいね」
「…そうだね」
色つきリップクリームがほんのりと痕を残す、主のいないマグカップ。
その唇の痕跡に無意識に重ねた僕の唇。間接キスで飲み込む、少しほろ苦いココア。
心なしか、杉並さんの味がした。
「むーっ!お兄ちゃん、わたしのも飲んでっ!」
そして妹に追い回されたのは言うまでもない。


 あとがき

睦美ちゃんと理姫のお話もそろそろ潮時なんで、次回、ついに睦美ちゃんと理樹くんが…。


 ってのは冗談です。
理姫ちゃんと睦美ちゃんって、多分普通には分かり合えない関係だと思います。
大好きなお兄ちゃんを狙っている女の子。
大好きな男の子と一つ屋根の下の女の子。
だけど、どこかズレてる理姫ちゃんのおかげで、睦美ちゃんのペースが崩れっぱなし。
そろそろ、理姫ちゃんが譲歩する頃かな。次回は前後編に分けて、理樹と睦美のデートを描く予定です。

 ……睦美ちゃんの勝負パンツの色と柄とデザイン、あったら大募集します。
採用するかどうかは未知数すぎるけどねー。相坂でした。

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