稲妻が映し出す輪郭、倒れた本棚、壊された模型、撒き散らされたノートたち。
その部屋に佇むのは、一人の少女だった。
今はすっかり荒れ放題で、主が帰らないその部屋は、彼女にとって憎しみでしかない。
誰もいないのをいい事に、更なる破壊を試みようとする。
今日は、何を壊してやろう。今日は、何を奪ってやろう。
そうして、彼女は机の一番上の、鍵が掛かった引き出しに目を付ける。
そうだ…あいつの墓を暴くように、プライバシーも、思い出も、何もかもを奪ってやろう。
そして彼女は開ける。すべてを記す、真実の鍵を。


ちょっとダークな純愛SS『消せない傷跡』
※楓がすべてを知らなかった場合の結末です。


 部屋の主は、土見稟という少年だった。
昔々、大きな交通事故があり、この子の両親と、そして彼女…楓の最愛の母は永遠に帰らぬ人となった。
日に日に衰弱していく身体の中で、彼がやがて放った一言は、彼女を復讐へと駆り立てた。
『僕が…したから』
『おばさんたちは…死んじゃったんだ』
『うそ…』
『ほんとだよ…』
彼が母親を死なせたというのだ。しかし、証拠も何もない、さらに両親を失っている彼に対して、楓はあまりに幼く、
あまりに短絡的だった。彼の都合も、彼の思いも、汲んでやることすら出来ず、ただ愚直に彼を怨んだ。
怨むことで生きながらえた。復讐することを生きがいにした。
食べ物の中に針や変な薬を仕込んだり、階段から突き落としたり、カッターで切りつけたり。
血だらけで床に転がっても、彼は変わらず笑顔を浮かべ続ける。楓にはそれが気持ち悪くてたまらない。
反撃してくるだろうという考えはなかった。稟に出来るわけないから。そして彼女の攻撃はエスカレートする。
部屋にあるあらゆるものを破壊した。オーディオだろうとカーテンだろうと壁だろうと机だろうと。
稟は自分がやったんだと叔父…楓の父に言った。でも父親は彼をしかりながらも薄々気付いていたみたいだ。
稟が、こんなことをするだろうかと。そしてそれをしたのが本当は楓なのではないかと。
しかし何時までもそんなことを言ってはいられない。きっと元凶は稟なんだ。叔父は引き取ったことを後悔していた。
自然と稟と楓と叔父は疎遠になる。稟は雨の中、街を歩いているところを警察に何度も補導された。しかし誰一人
彼を迎えに来てはくれなかった。叔父すらも。まして、楓も。


 そして中学に進んだ楓はやがて悪い男子とつるむようになる。
稟の気を引くためかは知らないが、稟の手前で男子達にパンツを見せたり、擦り寄っておねだりをする。
『あの土見って奴がうざいんだぁ。なんか迷惑なのに私につるんでくるの』
『んだと、俺たちの楓つまみ食いするたぁいい度胸してるなこら!』
そしてたちまちそんな男子達にボコボコにされる。バットで強打され、意識を失うとトイレのバケツで水をかけられ、
そしてまたバットで殴られる。一度体育の授業の際、ソフトボールの球を男子数名からぶつけられ、歯が折れ、
指の骨を骨折した。それでも彼は耐え続ける。それが許しに繋がると信じて。

 楓の行動はエスカレートする。
毎日毎日、男を家に連れ込むようになる。当然、それは悪い男友達ばかり、毎日入れ違い。
高校生やヤクザ風の男たちもいた。楓とセックスする代わりに稟を殺さない程度にやっつけてくれとお願いしていたらしく、
血の気の多い男たちが部屋に入ってきては稟に執拗に暴行を加える。その代償に楓とハメ狂う。
現役女子中生の、しかも特上美少女とヤレるのだから男たちは遠慮も容赦もなく稟を攻撃し、そして隣室で腰を振る。
楓の嬌声と男の声、そして壁の向こうのベッドがギシギシする音に、稟も疲れ始めていた。
土見稟を殺さない程度に殴ればヤらせてくれる安い女の噂はすぐさま不良たちやクラスメイトに広がる。
いつしか教師もそれに混ざりたいのか、稟にだけ執拗な個人攻撃を始めた。
『花瓶が割れた、土見、お前だろう』
『ガラスが割れた、土見、お前だろう』
『女子の下着が盗まれた、土見、お前だろう』
『テストの成績が良すぎる、土見、カンニングしただろう』
味方なんていない。汚いものを見るかのように、彼らは稟に執拗な攻撃を加える。
楓の周りに男は絶えなかった、稟の周りに誰もいなかった。
何時しか教室からも遠ざかり、保健室でカウンセリングを受けるようになるも、楓の情報戦により、校医とデキていると
デマ情報を流され、土見ならやりかねんと教師達も動き始める。やがて校医から直接拒絶される。迷惑だ、と。



 事実上トドメになったこと。それは稟の部屋での乱交だ。
稟がドアを開けたとき、そこは彼が知る彼の部屋ではなかった。
オスとメスがよがり狂う、あらゆる体液が入り混じった獣の檻だったのだから。
『あぁっ楓っ!楓の◎ンコ最高っ!』
『はぁぅんっ♪小林くんっ、高槻くんっ、宮島くんっ、河本くんっ!みんなの◎ンチン、大好きっ!』
2人の性器を左右の手でしごき、性器と肛門に他の二人の性器を迎え入れている楓。初めて見る、乱交。
他の男子がそういう媒体で知りえた情報も、稟には知ることが出来なかった。そんなのを知れる媒体がないから。
楓はどこで覚えたのか分からないイヤらしい手つきと体で男たちをよがらせ、そして自らも高みへ飛ぼうとする。
『ねぇっ、これじゃ誰の赤ちゃん妊娠するかわかんないよ☆いいよねっ、土見に面倒見させるから♪』
『そうそうっ!おっ、本人お帰りだっ!』
『後でボコしてやるからなっ!』
『おいお前ら…いい事思いついた』
一人が何かを思いついたらしく、全員に離れるよう促す。極上の身体を弄ぶのを止められて渋々離れる。
男は、楓の膣にモノを差し込んだまま、稟の目の前で抱きかかえた楓を開脚させ、腰振りを再開する。
『ひゃぁ☆』
『オラオラ見ろよ土見!お前の幼なじみの楓は今から俺のガキを孕むんだぞー!』
そして直後に雄叫びを上げ、種汁を楓の膣の奥深く、子宮に流し込む男。
『にゃぁっ…赤ちゃん、赤ちゃん楽しみだなぁ…』
『そうだろ楓?俺の女になればいっぱい贅沢させてやるからなぁ…』
そうして楓は上から稟を見下ろし、そして残酷な目で彼をなじる。
『こんな男、生きてるだけ精神衛生に悪いわ。殺しちゃっていいよ』
『合点』
『承知っ!』
そうしていつものように暴行が始まる。
背中にカッターナイフが何本もつき立てられる、拷問のような時間。その時間にもセックスは止まらない。
やがて血を失い始めるころ、乱交パーティーは解散となった。一番太いカッターナイフを、稟のわき腹に突き立てて。

『…』
『…ふんっ。死ぬなんて考えないでね。あんたには生き地獄を味わわせるんだから』
楓はどこまでも残酷に稟を苦しめる。そして死なない程度に止める。生きているほうが辛いが死ぬことが出来ない呪縛。
母親がこれをみて喜ぶか、そんな当然のことすらも分からなかった。これは復讐なんだ。喜んでくれると信じて。
『小林くんのガキ、あんたが育てなさいよ。子どもまだいらないんだってさ』
楓はすでに2回の堕胎経験がある。そのすべては『稟に強姦されて孕まされた』と父親に報告している。
これはついに叔父の逆鱗に触れ、稟は居室以外は何も保障されなかった。両親が残してくれた遺産の一部で楓の
堕胎費用を出さなくてもいいのに出し、そしてそれで食い繋いでいくしかない。信じてくれる人など、いないから。
 しかしついにその通帳も楓に見つけられ、ビリビリに破り捨てられた。
その紙で溢れてくる小林の中出しザーメンを拭いて、稟の顔にぶつける。遺産は既に意味を成さなくなってしまった。
生きる価値など、もうない。楓を生かしてやるという一応の目的は達成した。
彼は断を下す。日記帳の最後のページに笑顔の遺書を書き、そして、線路に身を投げた。



 土見稟という人間は永遠に失われた。
楓はその少年を死に追いやり復讐を成し遂げるという一応の目的を達成し、笑顔を絶やさない。
稟が死んでも、葬儀は簡略化されていたし、出る気などなかった。メチャメチャになった身体は既に荼毘にふされていて、
今更見る必要もなかったから、彼女はいつもの通り、セックスに明け暮れていた。稟死亡イベントを楽しむように、その日は
野球部・サッカー部・テニス部の男子と顧問を含めて百人斬りのようなセックスをして帰宅した。
そして今に至る。机の中の日記帳、それを暴くために。稟の死に様を笑いながら日記帳を読み進める。
そこには、両親の死からすべてが記されていた。


◎月×日
父さんと母さんが死んだことで楓をうらむ気はない。だけど、このままじゃ楓が死んじゃう。
だから僕は決めた。嘘をつく。いつか楓が大きくなってから気付く嘘を。
そう、僕がワガママをいったからおばさんが死んじゃったんだと。そうすれば楓は生きてくれる。


 ◎月×日といえば、まだ入院しているときだ。
『楓をうらむ?バカじゃないの。怨まれるのはあん…た…』
そこで彼女は気付いた。というより気付かないのが可笑しい矛盾に遭遇する。
母と稟の両親が事故死したとき、稟は僕がワガママいったから、と確かにそう言った。
だけど真実はどうだろう。そのとき本当に寝込んでいたのは。
『わ…たし…』
楓が風邪で寝込んでいたときに、父親が呼び戻したのだ。つまり死の責任は。
『りん…』
力なく突っ立っていると、風がノートを最後のページに導いた。


3月3日
 遺産を入れていた通帳が楓によって破られる。これで、ついに頼るものがなくなった。
身体中をカッターで刺されて、血もあまり残ってないけど、もうこれでいいんだ。もうこれで。
楓、お前の母親を殺してしまったのは俺だ。それでも俺は心のどこかで期待してたんだ。
いつか楓が大人になって、事故の真相に気づく日が来ると。そして昔みたいに2人でいられる日が来ると。
でも、結局その日は来なかったね。俺のせいだ。ごめんよ。

 あの時の俺は大切な人を一度に失っていた。楓を除いて。
だから、あんな拙い嘘をついてでも、楓を死なせたくなかった、楓にまた笑って欲しかった。
結果として楓を傷付けてしまったのに、俺はきっと悪い人間なんだ。殺されて当然の、かわいそうな人間。
だから、何も残らないくらい肉片になろうと思う。そうすれば、楓は許してくれると思うから。

 昔約束したよな。ずっと一緒にいようって。でも、俺の物語はここまで。お先に失礼、さようなら。
立派に生きて、素敵なおばあちゃんになってから来てくれ。俺はそれまで待ってるから。
それじゃ、またいつか。

P.S おじさん。お世話になりました。部屋ボロボロにしちゃいましたね。ごめんなさい。
   生まれ変わることが出来たら、大工さんになってもっといい部屋に作り変えて見せますから、許してください。
   土見稟として生まれられて、本当に良かった。父さん、母さん、今行きます。


   楓、もうすぐ卒業だな。俺はどうせ証書なんかもらえないから、もしももらえたら、捨ててくれ。
   ありがとう、卒業おめでとう、さようなら。さようなら。



 楓は気付いた。
誰が愚者だったのかということより、稟の本当の思いに。
そのノートを証拠隠滅してまで今までみたいな被害者面をするような意地汚さはもうない。
ノートを、帰ってきた父親に見せた。父親も驚き、涙する。
自分達が今まで散々卑しい存在だと思っていた少年は、実は誰よりも重いイエスの十字架を背負う子どもだったと。
そして結果的にそれを背負わせたのは自分だと、己の未熟さを悔やんだ。
楓はその日から学校に行かなかった。卒業証書は代わりに父親が受け取った。無論稟の分も。
それは稟の遺言に反して、稟の墓に納められる。きっと死後の世界でも苦痛でしかないかもしれないけど。
男たちは楓が家にいると信じ家に行ったが、会えなかった。
楓は気分転換のために父方の実家がある北海道に行った。そして、そこで妊娠が発覚したが、今度は自らの意思で
その子どもを産むことにした。それが、稟という命の償いになると信じて。しかし心労が重なったためか、6ヶ月目で
胎児は流産してしまい、その命が実ることはなかった。これは報いだ、そう思いながらも泣いた。
バーベナ学園に入学が決まっていたが途中編入という形で普通の高校に入学する。普通に神族や魔族の子ども達と
出会い、あらゆる勉強をした。彼女は、自由だった。


 しかし、幸せは続かなかった。
昔彼女とセックスしたヤクザが、楓の居場所を見つけ出し、仲間達とともに楓を奪いにやってきた。
楓に売春をさせ、それで一儲けするために。連れ去られることに抵抗したため、強姦され、証拠隠滅にナイフで腹を
数回刺された。絶命寸前の意識の中、彼女はその血で何かを始める。


 俗に錬成陣と呼ばれるそれは、錬金術を行うために必要なもの。
楓は最低限度の知識しかないが、それでも知っていた。人の命を作り出す禁忌があることを。
神の領域を侵すそれが『人体錬成』と呼ばれるものであることを。
楓は彼らが来る前までその準備をしていたのだ。そして楓がもうすぐ死ぬと悟り彼らが逃げ出した後、行動に移す。
その肉体、その魂を代価に、ある人を蘇らせるため。彼女を今日まで生かした、ある人を。

『稟くん…私が、代わり』
そこで途切れる意識。朦朧とする世界の中で、温かい笑顔が彼女に手を差し伸べた、そんな気がした。
【終わり】


 あとがき。
…これ、なんですか?怖い作品です。書いたほうが怖いです><
最後はどうやら鋼の錬金術師みたいなストーリーで終わりをつげまんた\(^o^)/
この後稟くんが復活したのかホムンクルスになったかはまた別の話なのであえていいませぬよ(*´ω`人)

楓が稟を怨んでいたらストーリー、これでよかったかなぁ。
怨むにも程があるし、ちょっと薄っぺらい感じがしないでもないけど少なくともモノにはなってるかも。
…リアルすぎてイヤだけど。楓ちゃんがこんなになったらぼく死にます\(^o^)/
ってことで、今日はこの辺で。またあとがき継ぎ足すかも。
…ホムンクルス稟くん見たいの?w


楓の遺稿の最初としてこの作品を選んだのは、生前彼女が一番好きな作品として、
これを挙げていたから。楓はすべてを知ったからこそ尽くす女になったけど、もしも
何も知らなかったら…と思うと怖い、といいながら書いてたっけ。
錬金術というものや魔法という概念が存在するSHUFFLE!のセカイらしい結末。

ちなみに、相坂のSSでも『人体練成』が可能であれば、と思いましたが、
リトルバスターズ!のセカイでは願えば可能性はいくらでも、という部分が否めないため、
逆にそういう展開をしなくてもいいので楽なような…。

ともあれ、これでようやく故人との約束も果たせそうです。
こんな感じで今後もリバイバル上映を行いますので、ご期待ください。

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