---消エル世界ニ、最期ノ矜持ト、温モリヲ。
---モウ叶ワヌ恋ナラバ、業火ノ前ノ、優シサヲ。
---泡沫ノ愛ニ身ヲ委ネ、結末ヲ受ケイレザル我ガ身勝手ニ、制裁ヲ。
---モハヤ、ココヨリ動ク術、我ニハ伴ワズ。


 まもなく桐原の一周忌。さっさと早死にしてしまった幼なじみ。
いつも能天気で、結構ニートでヒッキーで。でも人一倍いい子だった楓。

 最初に出会ったのは、京都から転校してきて数日経ったある日のこと。
やけにバカで能天気な女の子が、今よりは多少なり(本当に多少)かっこいい?いやむしろ今より多少マトモな?
男の子を連れて遊んでいた時だ。
それも……なぜかコックリさんで。
『こっくりさんこっくりさん来てくださいヽ('ー`)ノ』
『いや呼ぶなよ。てか呼んで何したいんだよ』
2人ともどちらかと言うと人間嫌いなのか、クラスでのイベントがない限りは特別何かに関与する、ということはなく、
どちらかと言えばあのときの楓って目立たない存在だった気がする。
最初から分かってた。彼氏とか彼女とかじゃなくて、あくまでもただのバカやる相手だって。
『転入生さんもいっしょにこっくりしよーよーヽ('ー`)ノ』
『悪いけど遠慮しとく。ヘンなのに憑かれたくないもん』
『えー』
よく言うと人懐っこい。悪く言うと、非常に馴れ馴れしい。
最初は本当に嫌いだった。今だから言うけど、あたし自身楓のこと嫌いだった。
でも向こうは本当に一方的に、アホ幼なじみが止めるのも気にせず、あくまであたしの精神領域に踏み込んできた。
『…』
『無視しないでよー』
『…』
何を言っていいか分からず、無視することしか出来ない日々。
小さい頃からの悪い癖で、相坂は案外人に馴れ合うことをしない。
馴れ合うのはちっともいいことじゃない。そう決めていたから。
でも結局は一緒にいる時間が増えていた。人間嫌い同士、なぜかウマが合ったのだろう。
お互いの目的、利害は一致していた。嫌いな誰かと組むことがないように。


 中学を卒業して、お互い別々の学校になっても、相変わらず相坂と桐原、そしてアホ幼なじみの関係は続いた。
そんなある日。楓が+++VALHALLA+++(後のRubicon)を作るとき、何をバカなことを…と諌めたことがあった。
『HPなんてまた面倒なもの作るのね』
『面白そうだからいいよーヽ('ー`)ノ』
あの頃から楓の基準は面白いか面白くないかの二択だった。
面白ければ当然食いつくし、絶対諦めずに最後はそれを叶える。
面白くないと分かっていたら、絶対にそれを認めず、どんなに進められても断る。
だから好き嫌いが多かった。絶対身体にいいからって進められたモノ、全部興味なかったらポイしちゃってさ。
『楓ちんは楓ちんらしく生きることにするよ』
その『らしさ』がどれだけの物か、結局あたしは推し量れなかったけど。
ともあれ、ホームページを作って、最初の頃はそれはそれは紆余曲折があった。
作品そのものが、どちらかというと18禁なゲーム。それを女が書く、というのだから。
当然ネカマだの、エロでスケベな女だの、好き放題言われていたこともあった。
そんなフォローを、あたしと幼なじみで欠かさず行った。元々メンタルが強いほうとは言えない楓。
でも、あんなに長い期間、作品を書き続けて、それでいて未だに未完成作品がたくさんあることに驚かされる。
たまに桐原楓の底が知れないと思うことがあるけど、あたしでも追いつけないって本気で思う。
あたしが書いているモノ、作り上げたHPの公開期間だってたかが知れている。


 約6年間、VALHALLA、そしてRubiconと名前と姿を変えながら、それでも根底をまったく変えず、誰もが喜べるサイト、
それを目指して突き進んでいた。いつも幼なじみの家に押しかけてはSSを書いていたっけ。
幼なじみとあたしが今の仕事に就いても、相変わらずな感じで、いつもいつも。
楓の実家にもパソコンはあったけど、何で幼なじみの家に行っていたのか。
後で知ったけど、やっぱりニートってたから、楓の両親はそこそこおおらかだったけど、やっぱり本人は居辛かったみたい。
悲しいことがあったわけでもないのに、ね。
幼なじみが家に帰るなり、部屋に入ったら『う〜んネタが…』とうんうん唸っている楓が居たって、良く愚痴られてたっけ。
いいじゃない、独身キモかっこ悪い男の部屋に少なくとも女捨ててる女がいるだけ、まだ華があるし。
そう言ってからかったのもいい思い出だ。
とにかく、楓は気が付いたらあたしたちの中心にいた。いつも、何かの中心にあの子がいたのに。
だけど、神様ってのが本当にいるとしたら、そいつは本当に残酷で、無慈悲な存在だと気付かされる。


 楓が入院したことは幼なじみより早く知った。
病名は最期まで教えてもらえなかったけど、今なら何となく分かる気がする。
ともあれ、楓は顔には出さなかったけど、日に日に弱って行った。一度本当に酷い顔になった楓が見れなくて、
本気でそこから逃げ出そうとしたことがあった。それでも、彼女から目をそむけず、あくまで立ち向かった。
あたしには力などなく、彼女を癒せる術などない。医者でもなければ神でもない。
退院したらリトルバスターズのエロゲ版をプレイして、SSを書くんだって息巻いていたっけ。
だから絶対買っておいてね、後で借りに行くからね、って。
明日死ぬかもしれないのに、もしくは仮に回復しても、もうタイピングが出来ない体になるかもしれないのに。
それでも無理して笑っている楓を見て、あたし、本気で思った。

いい加減、楓を自由にしてやってって。
もう、死なせてあげてもいいじゃんって!
本当に辛かった。
治るか分からない病気を前にしてあんなに笑ってられるあの子がイヤだった。
ある日、病院の先生が持ち込みはご遠慮くださいって言うのを無理言って、パソコンを持って行ってあげた。
ノートパソコン。もうマトモに動かないかもしれないけど。
本気で喜んでた。嬉しいよ、嬉しいよって、顔をふにゃってさせるの。
でも、結局打てなかった。
あんなに速くて、まるでピアノを弾いているように凄かったのに。
そのときの動きはもうなかった。数文字打って、もういいや、と投げ出す。
そんなんじゃ退院してもSS書けないぞ、って笑ってやったら、力なく笑ってたっけ。
もうあの頃から、楓の顔から少しずつ笑顔がなくなり始めていた。
死ぬこと、気付いていたんじゃないかって今では思える。

 桜、いっしょに見たいな。
もう一度、見たいな。
みんなでお花見行きたいな。幼なじみ氏とお団子早食い競争するんだ〜。

最期に話したのは、あまりに遠い、巡り来ぬ春の話。
それから暫くした夜に、容態が急変して、楓は…。



 結局遺品として遺されたものは、あたしと幼なじみには、重荷でしかなかった。
今年の春は、桜の花を見に行く元気もなかった。あいつは天国で桜を見られたかな?
あたしは、見れそうになかった。
目の前が涙でエコノミーになるのが分かってたから。
結局貸してやることがなかった、リトバス。
ホントにギャルゲなんて、半ば毛嫌いしていた感があったのに。
買っておいてって言われたから買っておいただけの、その作品。
封を破いて、無意識にパソコンに入れる。
そして、無意識にプレイする。
何もかも、ただ誰に言われるでもなく、かといって売るでもなく。
あくまでも、何かの意志に突き動かされるように。
気が付けば、SS書いてた。
幼なじみに手伝ってもらって、HPビルダー借りて、何気なく作ってみて。
出来上がったSSはあまりに無様で、支離滅裂な少女漫画のあとがきみたいな出来だったけど。
それでも人がどんどん集まってきて、やがてココまで大きなサイトになって。
仕事の合間を見て更新する毎日。もう、半ば笑えなくなっていた。

 桜や花火がよく相坂の作品に登場するのは、単に楓が好きだったから。
華やかで明るいものが大好きだった、どうしようもなくバカで、それでも誰より優しい女の子。
きっと今頃何も考えずにヽ('ー`)ノわーい♪って言いながら、あの雲の上を走ってるんだ、なんて思うと可笑しくなる。
楓、みんな元気でやってるよ。心配しないでいいよ。
何だかんだで、あたしももう少し、満足を得られず死んだ楓の代わりに、満足するまでSSサイト続けてみる。
誰かの心に残る存在になれるように、もうちょっとやってみる。
そう、春夏秋冬巡るこのセカイで、もうちょっと、自分に出来ることを、楓の代わりに。



 もうすぐ一周忌。
だけど、ちっとも華やかじゃなければ、辛気臭さも感じない。
まるで、楓が空気のよう。
空気だから、そこにあるのが当たり前のように感じるのだろうか。
あのぽっかり穴が開いたあたしと幼なじみの間の空間は、未だに空いたままだ。
それは、空虚だとか、寂しいからではない。
楓は今も生き続けている。あたしたちは、楓がまたこの空間に帰ってくるのを待っているんだ。
どれだけ時間が流れても、あたしたちにとって、この場所は他ならぬ桐原楓だけの場所なのだから。


---今度はぼくが、2人にお帰りなさいって言う番だからね 精一杯生きてからこっちに遊びに来てね---

                                                   ----楓の遺書より抜粋。

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