生きることは、何度も出会いと別離(わかれ)を繰り返すもの。
だけど、人はいつかまた、どこかの道で交わりあえる。
そう信じたいじゃないか。いつか、見えてくる私たちの答えの為に。


無駄にアレなSS『CROSS
ROAD』

 今日も、彼らはそこにいる。
すべてに全力で、すべてに熱くて、そして冷めたら別の遊びを考えて。
繰り返しながら、彼らは生きていく。
どんな悲しい運命が、また彼らを待ち受けるとしても。
「理樹君。この一年はどうだった?」
「…そうだなぁ」
今日は部室の大掃除。寮生は自室の掃除と担当区域の清掃、そして廊下のワックスがけを終え、
食堂でおばちゃん謹製の年越しそばを待つだけ、という状態になっている。
しかし、少なくともそのまま一年を終えるリトルバスターズであるはずもなく、恭介の鶴の一声で、
というより厳密には彼が言う前から、面子が少しずつ集まり始めていた。
そして最後に現れたのが、理樹、唯湖夫妻(仮)だ。
『理樹君が私の部屋の掃除を手伝ってくれたからな。そりゃもう掃除しなくてもいいところまで』
具体的に聞こうとした鈍感な真人が即座に断罪されたのは言うまでもない。
「そうだなぁ。みんなに会えたことかな。お互い顔見知りだったけど、こうして仲良くなれてさ」
「…むぅっ」
ほうきを突き出し、牙突(きばつき。それ以外の呼び方はない by 唯湖)。
「痛いよ」
「ええいうるさい黙れこの青二才が」
繰り返し牙突。現在6HITS。それでも立っていられるのは理樹がタフだからではない。
…唯湖が手加減しているからだ。それも理樹の身体に当たる直前に力を思いっきり緩めて。
「私と出会って幸せと言わない理樹君なんか嫌いだ。つんつんしてやる」
「絶対楽しんでるよねそれ」
冷静。そして笑顔。
もう、この二人を邪魔できるものはいない、かもしれない。
「おい来ヶ谷、遊んでないでちゃんと掃除しろ」
そこで謙吾が邪魔に入る。二人の世界をいじられたのが気に食わないのか睨みつける唯湖。
「…何だと?」
「掃除をしろと言ったんだ」
「違う、その前」
「その前とはなんだ?来ヶ谷って呼んだのが不味かったのか?」
「そう、それだ」
そして不敵すぎるほど満面の笑顔。爆弾発言。ボーナス確定。
「直枝だ。直枝唯湖。もう来ヶ谷ではない」
「…理樹」
「…お恥ずかしながら」
もう、それ以上は何も言わなかった。言えなかった。
その満面の笑顔があまりに恐ろしくて。機嫌を損ねたら死。そう脳が警鐘を鳴らす。
「というわけで直枝唯湖だ。来ヶ谷では知りえなかった直枝の技も会得しているぞ」
「どんな技だか…」
なかば諦め顔の理樹の横で伸びていた真人が「どんな技だ!」と起き上がってほうきで脳天を
克ち割られたのは言うまでも(ry


 しかしこの人数では部室は狭い。
そこで小毬の提案でレイアウトが変更される。野球部の備品だったバットやボールのもう使えそうにないものを
全部廃棄処分し、ロッカーにまとめて収納。そして空いたスペースに廃物置き場から拝借してきた木製のベンチを置き、
壁には唯湖の『漱石』『新渡戸』『一葉』『諭吉』『英世』など、堂々たるお札の方々の絵画を飾る。
さらには長机が無粋だと部室から全撤廃し、葉留佳と謙吾がとある筋から調達した、応接室にありそうなソファーと
木製の重厚な机を中心に配置。これがまた大きくて、搬入に手間取ったが、小毬が調達してきたカーペットと相まって
リトルバスターズ部室がまるで小粋な感じのサロンに早変わりした。
最後に観葉植物などを配置し、大掃除と模様替えが完了する。
無駄なものが排除され、実用性を取り戻した部室は、女子が多いリトルバスターズには最適な環境。
「ちなみにソファーに座れるのはチームに貢献している人間だ。出来てない人間は映す価値なしとしてベンチな」
「そんな芸能人格付けチェックじゃないんだから…」
恭介の提案は理樹によって即座に却下される。
「まぁとりあえずだ。この作戦の最大の功績者である小毬君はもちろんソファーに座る権利アリだ」
ここで唯湖の座る位置レイアウトが開始される。公然と異を唱える恭介。
「それじゃつまらないな。よし、これを機にバトルランキングを復活させよう。理由は無論、燃えるからだ」
「椅子取りゲームとかどうかな、かなかな?」
「…それでは、椅子の数を減らす必要があります。敗者が空気椅子というのは、中々の拷問です」
葉留佳の提案は美魚にいたって普通に却下された。
「空気椅子か…トレーニングにもなるな」
「やめておけ。小毬が震えてるぞ」
案の定、運動神経がアレな小毬はガクガクブルブル。
「それじゃなおのこと負けられないよー…」
「いや、椅子取りゲーム却下されてるから」
本当にマイペースな奴らのチームだけど、結束は誰よりも強いチーム。
だから、こんな無茶が出来るんだ。
理樹はそれを誇りに思う。出来れば、これからもこんな平和な日々が続けばと願いながら。


 「で、来ヶ谷よ」
「ふんっ」
ばきっ。話しかけた真人が断罪される。
「ぎぇぇっぇぇぇえぇぇぇぇぇっ!」
「物分りの悪いウンコッコめ。何度言えば分かる。私は直枝だ」
「…ふぇぇ。ゆいちゃん、理樹君と結婚したんだ−」
そう言えばさっきの喧騒で唯湖が自称直枝唯湖になったのを知っているのは謙吾だけだった。
だから全員から黄色い歓声が上がる。
「えーっ!理樹くんいいなぁ、姉御と結婚いいなぁ!」
「うむ。葉留佳君とは死んでも勘弁願いたいからな」
「ちぇーっ」
葉留佳の発言に理樹よりも先に反応、味噌カツジュースは飲まされたくないと笑顔で付け加える。
「リキ、こんぐらっちゅれーしょんですっ」
「私には言ってくれないのか?」
「わふーっ」
クドの頭を撫でながら理樹みたいにおめでとうを言ってとおねだりする。
「理樹くん、ゆいちゃんと結婚して、早く赤ちゃん抱っこさせてねぇ?」
「そうだな。まずはそのゆいちゃんをやめてくれ…その後小毬君と私の赤ちゃんを作ろう」
「いやぁ、むりだよぉ」
理樹もため息混じりに「なんでやねん」とお約束のツッコミを入れてやる。
「む。やっとつっこんでくれたか。そんなので来ヶ谷の技はマスター出来ないぞ」
「どんな技ぐはぁ」
そしてそんなほのぼのムードを一瞬にして断末魔に変える真人は、根っからのコメディアンなのかもしれない。


 そして日は落ちて、夜。
理樹は唯湖の部屋にいた。まだお互い服は着ている。念のため。
「理樹君」
「ん」
お互いの左手薬指に光る、銀色の輪が部屋の照明に反射してキラキラ光る。
その左手同士を重ね合わせる。そして目を閉じる唯湖。
「何だかんだ言っても、この一年は幸せまみれだった」
「あんまり嬉しそうな表現じゃないよね、それ」
いいながら、理樹も目を閉じ回想する。
初めて話した日のこと。数学の時間のお茶会。初デートの雨の中の遊戯、そして世界の真実を知ったとき。
変わっていく勇気があれば、一歩踏み出す強さがあれば、必ず世界は変えられる。
だから、今こうして愛しい人と新しい年の訪れを迎えられる。
と、唯湖が不意に手を離した。
「唯湖さん?」
「理樹君。私は今一つのことに怒っているんだぞ」
「怒ってる?」
なぜ怒るのかわからない。少なくともやきもちを妬かれるような行動はとっていないつもりなのだが…。
そんな彼に案外あっさりと答を齎すのも、唯湖らしいところか。
「こんなに私の心を温かくして、しかも私に感情を与えて、そのくせそれが当たり前のようにしているキミが度し難くて怒っているんだ」
「…くすっ」
「なんだ貴様そんなに死にたいのかそれなら先にそう言え」
本気で怒る唯湖を抱き締める。
「ん…理樹…」
「別にそれは僕のせいじゃないよ、唯湖。誰のせいでもない。唯湖が恋する女の子だから、だよ」
「むぅっ…納得できん。よし、今から私は冷徹来ヶ谷ちゃんだ。何を言われても綾波ばりの口調で返してやる」
「僕は長門のほうがいいな」
「ええいうるさい黙れこのアニヲタめ」
ワケの分からないところで拗ねるところも、理解できないが可愛いところ。
「ほら、もう反応してくれてる」
「…っ」
そうして唯湖を抱き締めながら、長い黒髪の香りを愉しむ。
「くすぐったいぞ…」
「唯湖が愛しくて。もう唯湖がいる時間が当たり前で。これが壊れるくらいなら、僕は何もいらない、よ」
そこで眠気が襲う。これは、ナルコレプシーの症状ではない。
安心できる場所、香りだったから。
小さい頃の、母親と同じ香り。ゆりかごの中の、温かい世界。
「理樹君、眠いのか?」
「うん、少しね。何か落ち着いたから…」
「そうか、それなら、ほら」
進んで、その膝を差し出す。
「ここを使うといい」
「ん」
そして膝枕。柔らかくてしなやかな脚。穏やかな顔。
「11時半には起こしてやる。だから暫く休め」
「…ん」
優しく理樹の頭を撫でる。母親が子どもを寝かし付ける仕草。
唯湖がちゃんと母性を持っている証拠じゃないだろうか…そう思いながら、理樹はしばしの眠りについた。


 もう悲しい夢を見ることはなくなった。
温かい世界。愛しい人が呼ぶ声がする。
「理樹君。もうすぐ時間だぞ」
「ん…」
うっすらまぶたを開けると、いつもの優しさがそこには確かにあった。
「ちゃんと時間通りだ。どうだった、私の膝枕は」
「ん…えくすたしー」
「ワケが分からん」
眉をひそめ真剣に考え込む唯湖に、起き上がった理樹が頬擦りしながら甘える。
「理樹君、くすぐったい」
「…夢、見たんだ。唯湖さんと結婚した後の夢」
「それは、もう今現在がそうじゃないのか?」
理樹の頬の輪郭を指輪の付いた手でなぞる。答える理樹はいつもと違う。
「子どももいたよ。きっと今じゃない、もっと先の話」
「…」
唯湖は正直不安だらけだ。
初めての恋。そしてあまりに上手く行き過ぎた話。
彼女の両親は了承してくれた。厳密には渋る父親に対して母親がヘッドロックしながら強制的にOKと言わせた
感じがなくもない…アグレッシブな家庭だったが。唯湖に似てすごく強いお母さんだった。
だけど、あまりに上手く行き過ぎて、時々不安になる。
本当に、私でいいのだろうか。
そういう気持ちが去来するたびに、不安になる。
いつか、理樹がいなくなるんじゃないか、と。
「理樹君は、子どもが欲しいのか?」
「うん…いつかはね」
「どっちが欲しい?」
どっちでもいい、理樹と永遠に一緒にいられるのなら、どちらでも構わない。
そんな不安を払拭する一時の手段にも、理樹は真面目に考えて答えてくれる。
「んー。男の子、かな?」
「なんでだ?」
「…夢で見たんだ。唯湖に似て快活な男の子。男の子はお母さんに似るんだって」
「…」
「だから、唯湖に似て、強くて優しい人に育って欲しいから」
…あぁ、これだ。
この人は、本当に真剣に考えてくれているんだ。
これ以上の追求は必要ない。理樹を抱き締め、そして頭を撫でる。
「それなら私は女の子だ。理樹のように少し弱虫でもいい。いざというときに人の為に何かが出来る子に育てたい」
「それじゃ、両方出来るまで頑張ろうね」
「なんだ、テレビに出るつもりなのか?」
大家族を想像して少しばかり微笑ましく感じる。それまで愛情や恋心を知らなかった自分が、目の前の男性と
子どもをたくさん作って、そのお母さんになる姿を想像して相当滑稽だったらしい。
「それなら、理樹のお母さんは、きっと優しい人だったんだな」
「…うん。優しかった。誰よりも。きっと、唯湖に似ているんだ」
光栄なようで、少しむず痒い。
だが母親の姿を唯湖に見ているわけではない。それは自信を持って言える。
理樹は、そんな単純な生き物じゃないから。

 外があまりに静かなのでカーテンを開ける。
雪。ちらつく雪。どうやら正月の最初は雪に埋め尽くされるようだ。
ストレルカの遠吠えが聞こえる頃、カウントダウンが始まる。
5,4,3,2,1…。

 バンッ!
外で花火が上がる。どうやら誰かが仕掛けておいたのだろう。
それは、空中でハート型になり、消える。
「成功かな」
「…まさか」
「うん。時限式なんだ」
「…」
思わぬ犯人が目の前に。恐らくバレることはないだろう。ほんの一瞬の計画的犯行。
「キミって奴は…」
その先は続かない。後ろからしっかり抱き締められる体。
「理樹」
「唯湖」
あけましておめでとう。今年もよろしく。
一緒に見る雪はこれが初めてじゃない。だけど、一緒に迎える正月は、これが初めて。
恭介が卒業するまでの3ヶ月間を盛り上げていこう。そして、来年も、再来年も、唯湖とこの日を迎えよう。
リトルバスターズの面々が騒ぎ始めたようだが、窓辺でキスを交わす唯湖と理樹にはもうそんなのは関係なかった。


「理樹」
「?」
「姫初め、としゃれ込もうじゃないか」
「…ロマンを求めた僕がダメでした…」
きっと、この唯湖も、絶対変わらないと思うけど。
(終わり)


あとがき。
前書き&聞いた曲と全然関係ねぇ…OTL
ってことで書いてみました。大晦日。そして次回はついにお正月。
いろんなイベントが控えていますが、リトルバスターズの面々はどんな季節をみせてくれるのやらやら。
今回は曲SSの枠に入っていないので、あくまでも理樹と唯湖の甘甘支離滅裂ストーリーでした。
現実世界ではまだ秋だっつーの!というツッコミはナシの方針でお願いいたします。時流でした。

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